慶宮医院(横浜市)宮地清光先生

痛みから早く解放されるために 早期関節リウマチの鑑別診断にHRTを

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更年期世代の女性に発症しやすい疾患の一つに、関節リウマチがあります。1時間以上続く「朝のこわばり」や指の関節痛が見られますが、更年期の関節症状と見極めがつきにくいのも特徴の一つ。内科医で、リウマチや膠原病などの専門治療に取り組む宮地清光先生は、HRT(ホルモン補充療法)を処方することで、更年期の関節症状との鑑別に確実な成果をあげておられます。「早期診断、早期治療で患者さんの痛みを早く取ってあげられるだけでなく、関節リウマチの発症を抑えるためにも、HRTの処方は役立つのではないか」と宮地先生は言います。

 


早期関節リウマチを疑われた症例が、HRTにより2か月で軽快

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横浜市鶴見区で、長く内科「慶宮医院」を開業しておられます

地域の内科・小児科であると同時に、リウマチ、膠原病、自己免疫性肝疾患(原発性胆汁性肝硬変、自己免疫性肝炎など)の専門医でもあります。患者さんは赤ちゃんから高齢者まで幅広いですが、関節リウマチを疑ってくる方は、閉経前後の女性が多いですね。40代後半、月経周期が乱れてきて、朝のこわばり感や手を握りにくい、関節が痛む・・・。そんな症状を抱えてこられます。

 

HRTの処方をはじめたのは

8年ほど前、58才の女性の来院がきっかけです。関節の強い痛みがあり、何軒かの病院をめぐっても原因がはっきりせず困り切っていました。検査をすると、リウマチ反応は陰性、そしてCRPというリウマチの診断に役立つ炎症反応も陰性でした。しかし、早期の関節リウマチでは、症状はあっても検査結果には出ないということもままあるのです。患者さんは痛みの訴えがとても強く、時に歩けない、立てないという状態も数日続いていましたので、まずは抗リウマチ剤による治療を開始しました。

ところが、通常のリウマチ治療では、この方の症状は軽快しませんでした。よくよく話を聞いてみると、めまいやだるさなどもある。そして6年前の閉経2年後には、そうした更年期症状にかなり悩まされていたというのです。「ひょっとして・・・」と思い、小山先生(小山嵩夫クリニック院長)にこの方を紹介しました。小山先生の診断により、ホルモン数値の結果からも更年期障害だろうということでHRTを処方。すると、2か月ほどで症状は消失しました。

 

つまり、この方は関節リウマチではなかった

関節リウマチも少しはあったかもしれません。しかし、エストロゲンの補充で改善したということは、多くは更年期障害によるものだったということでしょう。私自身も、当初は誤った診断をしていたわけで、早期関節リウマチと更年期障害というのは、このように見極めが難しいものなのです。

 

  • ※関節リウマチ:あちこちの関節に炎症が起こり、関節がはれて痛む病気。長期間にわたって進行すると関節の変形と機能障害が起こり、日常生活に支障をきたすだけでなく平均寿命が10年短いといわれている。世界的に人口の0.5%が罹患し、女性には男性の約4~5倍多く、女性の場合30歳代から50歳代の発症が多い、男性の発症は5年ぐらい遅いとされる。

 


関節リウマチの初期症状と、更年期の関節症状は混雑されてきた

症状はあっても検査結果が陰性。そうした人で関節リウマチとされている人は多いのですか

発病の初期では、症状があってもリウマチ因子がマイナス(陰性)ということはよくあります。その場合、女性で45~55歳の方であれば、更年期の関節症状を疑うのが自然でしょう。しかしまだ、その考え方がない専門医もたくさんいます。

そもそも、関節リウマチの中には、発症しても1~数年で治ってしまう「単周期型」があり、世界的にこの単周期型が全体の25%ぐらいもあるとされています。私が30数年前留学した米国でデンバーのコロラド大学リウマチ科で大変有名な先生もそのように言っていましたが、しかし私は5%もいないと思っています。やはり、関節リウマチの初期症状と更年期の関節症状というのは、よく患者さんを診ていないと見極めにくい部分があるのではないかと思うんですね。

 

そこで鑑別(見極め)の方法が重要になってくる

小山先生と相談し、閉経後の女性患者さんにはまず2ヶ月ぐらいHRTをやってみたらどうかということになったのです。2ヶ月ぐらいであれば、エストロゲンの単独療法を行っても、子宮がんなどを増やすリスクはまったくないことがわかっていますから。

もし、明らかな関節リウマチの人であれば、HRTではよくなりませんし、更年期の関節症状であれば、2か月でかなり軽快するでしょう。この方式で、HRTによる関節リウマチと更年期の関節症状の鑑別を、現在までに100例近く行っています。

 
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早期鑑別は、関節リウマチの患者さんにもメリットがありますか

かつてリウマチは、痛みを抑えるだけで治療法のない難病とされてきました。しかし今は、早期の段階で関節リウマチの診断をして、早く抗リウマチ剤や生物学的製剤(※)を使うことができれば、リウマチは治る病気になってきました。

そこで、的確に早期リウマチの鑑別診断をすることが、これまでにも増して大切になっています。更年期の関節症状と見極めのしにくい早期に、HRTを使って早期リウマチであると鑑別することができれば、これらの新しい薬を効果的に使うことができます。

 

  • ※生物学的製剤:生物が作り出すタンパク質を投与することにより、関節で骨を壊す「腫瘍壊死因子(TNF)」や「インターロイキン6(IL6)」と結合してその働きを抑えるもの。生物学的製剤は、日本では、2003年~2008年に4剤が承認された。これにより、従来の痛みを和らげる治療から、関節の破壊を抑えてリウマチそのものを治す治療へと転換した。

 


もし、リウマチ専門医が「更年期の関節症状」を知らなかったら

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検査結果でリウマチ因子がマイナスの時、医師に更年期の視点がないと、診断はどうなるのですか

「未分類の関節炎、関節痛」となります。関節リウマチとは別物となりますが、治療はせず経過観察になるんですね。そうすると、2年ぐらいの間に約半分の人は、病院に来なくなってしまう。恐らく自然に痛みがなくなり治ってしまう軽い更年期の関節症状と思います。

残りの半分のうち、25~50%が関節リウマチ、50~75%がそれ以外の病気(変形性関節炎、乾癬、膿庖性関節炎)と更年期関節症状の手強いものと考えることができます。しかし、最初にきちんとHRTを2か月ぐらい処方すれば、更年期の関節症状は経過観察せずに診断できるのです。

 

HRTでよくなれば、更年期の関節症状なのですから安心できます

「様子を見ましょう」と言われると、患者さんは治療を求めていろいろなところに行ってしまうんですね。そういう、非常に悲惨な例もたくさん見ています。

 


エストロゲンの減少とリウマチ発症とのかかわり

リウマチのように女性と男性で発症に差のある病気を「性差のある病気」というのですね

関節リウマチは単一な疾患ではなく原因の少し異なるいくつかの集団を見ていると思います。関節リウマチは、女性のほうが4~5倍多く発症し、その多くが40~50代の更年期世代に発症する集団が1番目につきます。更年期世代の女性に必ず起こるエストロゲンの低下が、リウマチの発症に大きく関連していると思われます。

 

エストロゲンはどのように影響しているのですか

関節リウマチのなりやすさに大きく関係しているのは、その感受性遺伝子を持っているかどうかです。そこに、環境因子、つまりウィルスやばい菌の感染、ストレスなど何かの外的な要因が接合することによって、リウマチ発症の準備ができます。そこに更年期でエストロゲンの低下が加わると、準備段階でとどまらず刺激が増幅され自己免疫現象を誘導しリウマチを発症してしまうのです。

 
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女性の好発期は他にもあるのですか

出産後もそうです。妊娠中血中E2(エストロゲン値)は上昇し何万ピコグラムにもなります。ところが、お産が終わると急激に減少し、20ピコグラム以下にまで落ちてしまいます。特に、授乳中はエストロゲンが低いレベルで保たれますので、その間に関節痛などが起こりやすくなりリウマチが発症したり増悪します。

今のところ、エストロゲンの低下が、どのような作用機序でリウマチの発症に関係しているかは、まだはっきりとわかっていません。しかしリウマチのように性差のある病気では、エストロゲンの低下がリウマチ、膠原病の誘導につながっていることは間違いないとみていいでしょう。

 

では、エストロゲンを補充することで、リウマチ発症を食い止めることもできる

そうですね。更年期の時期にHRTをすると、エストロゲンの数値は50~100ピコグラムで維持されます。これを数年間続けることによって、リウマチ発症の準備状態から発症へ進むのを抑えることが可能だと思っています。本院ではCRP陰性、RA陽性の多発性関節痛、関節炎の15名以上の方にHRTを2年間近く施行していますが今のところ1例も発症を見ていません。

当初は、関節リウマチの鑑別のためだけにHRTを行う患者さんがほとんどでした。しかし最近は、「こんなにいろいろな症状がなくなるなら、もっと続けていたい」という患者さんが増え、関節症状がとれても、続けている例が多くなりました。また関節リウマチと更年期障害の両方を持って治療されている方、骨粗鬆症の予防で高齢期まで続ける方なども増えています。

 

現在は、更年期障害の患者さんも来院されているそうですね

婦人科、乳腺外科、との連携で子宮がんや乳がん検査を行いながら、薬剤師の方と一緒にHRTを施行しています。医師の説明だけではなく、メノポーズカウンセラーのフォローも大切で本院では協力体制ができています。更年期を見ることができるようになってから、診療の幅が広くなりましたね。内科医で子どもから高齢者まで見ていましたが、より全身を見ることができるようになった。と同時に、薬の使い方も変わってきたように感じます。

内科医は、男性も女性も同じ医療をするのではなく、40~50代ぐらいの女性には更年期の視点を持って診察し、可能であれば治療し、できなければ専門医に紹介することが必要だと思います。

 


プロフィール:宮地清光(みやちきよみつ)先生

慶應義塾大学医学部卒業。
1973年6月
慶応病院内科リウマチ研究室所属
1976年
スクリップス研究所、コロラド大学医学部留学
1978年
藤田学園保健衛生大学医学部内科講師
1980年
横浜市鶴見区に慶宮医院開設
藤田学園保健衛生大学医学部内科客員教授、前東京女子医大消化器内科非常勤講師、日本内科学会、日本リウマチ学会(指導医)、日本臨床免疫学会(評議員)、日本臨床内科医会、(前膠原病、リウマチ班長)日本更年期医学会(評議員)。更年期と加齢のヘルスケア学会(理事)、保健科学研究所・自己免疫病血清センター顧問

 
慶宮医院
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神奈川県横浜市鶴見区市場西中町2-2 
電話/FAX 045-501-5361
診療曜日、時間など詳しくは病院にお問い合せください。

 

関節リウマチだけでなく、シェーグレン症候群、線維筋痛症などの鑑別診断にも先見的にとりくまれ、患者さんのつらさに早く的確に対処する医療を実践しておられます。また、更年期女性のヘルスケアに積極的に取り組む「更年期と加齢のヘルスケア学会」理事をつとめるなど、更年期医療についても造詣の深い先生です。