海外更年期状況調査報告-7. フィンランド報告その1(2008年9月)

北欧視察に向けて

img-kai7-flag前号でもお伝えしたが、9月下旬に当会三羽理事長と筆者2名で北欧(フィンランドとスウェーデン)に視察調査に向かった。先ずフィンランドのヘルシンキ大学中央病院を視察し、次いでスウェーデンのカロリンスカ大学他を視察する運びとなった。
今回の訪問にフィンランドとスウェーデンを選んだ理由は、両国とも女性医療の充実度が高く、またHTの歴史も古く更に他諸国の中でも高いHT普及率を示している点などであった。この普及率については、今報告vol1記載での海外HT普及率のグラフをご参照いただきたい。更に、HTの効果に関して多様な研究デザインを手法とする大規模調査も多数行われており、特にHTとQuality of Lifeとの関連について、またHTの費用効果等の論文を筆者がこれまでに多く目にしていたこともあった。その他にも女性たちの意識調査など、更年期に関する多数の論文が出版されており、これら両国の実情に当たることで、日本においての参考にも多々なるのではと思った次第である。
 
北欧で出されたQOLの論文では、様々な評価尺度を用いて更年期世代女性のQOLが測定されている。例えばフィンランドでは以下の報告がなされている。低容量のHTを419名の女性に9年間使用し、健康関連のQOLを評価した結果、対象者のQOLは改善され、また高容量のHTを使用したのと同等の効果が見られた(参考文献1)。また、HT開始年齢が56歳の女性に9年間HTを投与した場合も、対象者のQOLが向上した(参考文献2)。
 
img-kai7-phto1またスウェーデンの論文では、婦人科医・内科医の妻、そして医師自身(女性医師)のHT使用率が高い状況について非常に印象的な報告がなされている。具体的には、更年期症状を有するか、あるいは閉経した女性内科医師318名のうち72%がHTを使用し、女性婦人科医師の474名のうち88%が使用していた(3)。また内科医の妻の68%がHTを使用し、そして婦人科医の妻の86%がHTを使用していたとの報告である(参考文献3)。
この論文から、女性医師自身が実際に使用し、また医師の妻が使用しているのは、医師自身がその有効性を熟知し、安全性を確証しているということが考えられた。また同時に、婦人科はもちろんのこと内科医にも更年期医療への教育啓発が頻繁になされているということも示唆された。
当会ではこれら両国の実情を視察し、医師などの医療従事者への更年期医療の啓発の方策や、北欧における更年期世代女性のQOLの位置づけ、更に一般女性の更年期に対しての意識などについて直に知りたいと、このような期待を抱いて北欧へと向った。

 


フィンランドに到着

フィンランドの首都・ヘルシンキへはフィンランド航空の直行便が成田から飛んでおり、わずか9時間前後で到着することができた。フィンランドは日本からもっとも近いヨーロッパということで、そのアクセスの良さに驚いた。シベリア大陸上空を数時間飛び続け、飛行機が段々と高度を下げ始めると湖や島々、緑の風景が機内の窓から見えるようになり、「森と湖の国、フィンランド」はもうすぐであった。
我々が訪問した9月の末は、北欧ではすでに深秋~初冬の気温で、半袖の日本から冬用のコートを持参した。無事ヘルシンキ市内に到着すると、その乾いた涼しい気温、そして木々の紅葉に目を奪われた。また多くの建物が東欧の風情を醸し出し、ここはロシアの隣国であることを再認識した。
インタビュー当日の朝、宿泊した先のホテルで、酢漬けのニシンや胚芽パンなど、北欧ならではの素朴な滋味溢れる朝食を食べると、改めて北欧へ来たとの想いと共に、インタビューを成功させたいとの強い気持ちが一段と涌き上がった。
 
img-kai7-phto2フィンランドでは、ヘルシンキ大学中央病院婦人科のOlavi Ylikorkala(オラビ・イリコルカラ)教授と面会し、更年期医療の状況についてインタビューをすることとなった。オラビ教授はフィンランドの更年期医療の第一人者の一人で、HTについての論文も多数出され、日本にも講演に招待されたことがあると聞いている。
インタビュー場所であるヘルシンキ大学中央病院に向うと、その広大な敷地と広いエントランスに目を奪われた。1935年に建てられ、現在は産婦人科だけで病院の一つの棟を成しており、病院全体で約20ヘクタールもの面積とのことであった。国を代表する医学部併設の大病院であり、teaching hospitalとしての機能を果たしている。
我々が到着すると、病院の受付スタッフがイリコルカラ教授の部屋まで案内してくれた。教授は、溢れんばかりの笑顔と力強い握手で迎えてくれた。すぐに我々を婦人科外来に案内し、廊下ですれ違うスタッフ一人一人に我々を紹介してくれた。病院内を見学して印象的だったのは、男性スタッフと一人もすれ違わない、ということであった。看護師、助産師、受付などその他のスタッフもすべて女性で、それも非常に機敏にテキパキと笑顔で仕事をしており、働く女性の活力を目の当たりにした気がした。
巨大な中央病院であるので、フィンランドの国中、あるいは隣国や東欧からも産婦人科の複雑なケースがこちらに搬送されてくることが多く、特に産科救急は常に稼動している様子であった。
婦人科外来の案内が一通り終わると、迷路のような長い地下通路を渡り、病院の会議室へと移動した。そこでオラビ教授へのインタビューを行った。フィンランドの更年期医療の状況、WHI後のHT施行の様子、そして医師や更年期女性のQOLへの意識など、詳細に話を伺うことが出来た。続きは次号でお伝えしたい。

 

img-kai7-phto3婦人科のOlavi Ylikorkala(オラビ・イリコルカラ)教授。ご自分の肖像画と並んだ1枚である。ヘルシンキ大学中央病院の歴代教授は、60歳を過ぎると自分の肖像画を描かせ、教授室の前に飾らなくてはいけないという風習があるとのこと。ご自分の肖像画と並んで撮るのに照れていらしたのが印象的である。



参考文献

1. Heikkinen J, Vaheri R, Timonen U. A 10-year follow-up of postmenopausal women on long-term continuous combined hormone replacement therapy: Update of safety and quality of life findings. J Br Menopause Soc. 2006 Sep;12(3):115-25.
2. Ylikangas S, Sintonen H, Heikkinen J. Decade-long use of continuous combined hormone replacement therapy is associated with better health-related quality of life in postmenopausal women, as measured by the generic 15D instrument. J Br Menopause Soc. 2005 Dec;11(4):145-51..
3. Kerstin Andersson, Anette Tonnes Pedersen, Lars-Ake Mattsson and Ian Milsom Swedish gynecologists’ and general practitioners’ view on the climacteric period: Knowledge, attitudes and management strategies. Acta Obstetricia et Gynecologica Scandinavica 1998; 77:909-916.