海外更年期状況調査報告-8. フィンランド報告その2(2008年10月)

女性の従業員の多さに圧倒

フィンランドでは、ヘルシンキ大学中央病院婦人科の Olavi Ylikorkala(オラビ・イリコルカラ)教授と面会し、更年期医療の状況についてインタビューを行った。今号はその続きである。
 
img-kai8-phto1インタビューに入る前に、フィンランドの女性の社会的状況について簡単に触れたい。フィン ランドは、女性の社会進出が盛んな国であり、就業人口の中で女性が占める割合も 63%と諸外国 と比べて高い。労働力率(人口に対する労働力人口の割合)について見ても、フィンランドでは 20歳代から 60%を超えており、40歳代から 50歳代にかけて 90%とピークを迎える。つまり、フィンランドの労働力率は、女性が出産・育児により離職することなく仕事を続けることを表す「台形型」を下記のように示しており、このことから専業主婦の人口は非常に少ないことが推察 される。
一方、日本では 20歳代後半から 30歳代にかけて結婚・出産で離職するケースが多いため M字 のくぼみが深くなっている。
 
上記のデータのように、フィンランドにおいては働く女性の占める割合が非常に多いことを示しているが、実際に首都ヘルシンキに夕刻に到着し、宿泊先のホテルで出迎えてくれたのは、すべて女性の従業員であった。例えば玄関でのベルガール、レセプショニストやコンシェルジュ、運転手やその他従業員など、直接宿泊客と接するスタッフ達は、すべて女性で構成されていた。また街を歩いていても、ターミナル駅では駅員など、女性たちの働く姿が目に付き、それぞれが 責任のあるポジションについているようであった。
中でも、インタビュー訪問先のヘルシンキ大学中央病院では、玄関受付の案内係や、またオラビ教授が病院案内をしてくれる途中ですれ違う病院スタッフ(看護師、助産師、検査技師、ソーシャルワーカーなど)もすべて女性であった。みな力強い握手で迎えて下さり、女性がフィンランド社会の中で重要な役割を担っていることを実感した。

 


フィンランドにおける女性の社会進出

それでは、フィンランドにおける女性の社会進出はいつごろから始まっているのだろうか。文献によると、まず教育面では、1900 年代初頭には大学教育が女性に認められている。
政治については、同じく 1900 年代初頭に女性の参政権が認められ、女性議員が初登院している。フィンランドはヨーロッパではじめて女性の参政権を認めた国としても知られている。1926 年には女性の大臣が誕生し、以降、女性が大蔵大臣や法務大臣、国会議長を務めている。フィンランドには首相と大統領の両方が存在するが、かつては女性の首相(アネリ・ヤーテルマキ氏)が誕生したこともあり、また 2000 年から現在まで女性大統領(タルヤ・ハロネン氏)が就任している。
国会議員の3分の1が女性であり、一時期は閣僚ポストのうち、その半数を女性が占めていた。政治の世界においても、フィンランドでは男女平等が進んでいる。
また女性の職業別に見ると、最も女性が多い分野は社会福祉系で、次いでホテル・レストラン、保健、教育、金融関係の順となっている(参考:Standard Industrial Classification)。
 
前記の労働力率グラフからもわかるように、更年期世代である 40 歳代からフィンランドの労働力率はピークを迎える。働く更年期世代女性の数をそれだけ多く抱える社会であれば、この世代の女性のヘルスケアや更年期医療の普及は欠かすことができない問題であろう。ここで、フィンランドでは実際の更年期医療の環境作り・システムはどのように行われ、どのように認識されているのかをインタビューから具体的にご紹介したい。

 


女性の QOL について~イリコルカラ教授とのインタビュー

img-kai8-phto2前号において、北欧では更年期世代女性の QOL についての論文が多数発表されていることを述べた。実際にイリコルカラ教授とのインタビューにおいても、「更年期女性のQOL」がトピックとして頻繁に登場し、また教授ご自身が臨床と研究の上で最も重要視しているポイントであった。
 
イリコルカラ教授は、「更年期はだれもが迎える極めて自然な現象である。それに伴うあらゆる症状は、女性の QOL を低下させる」と強調し、「主にフィンランド女性は、更年期の症状として、ホットフラッシュや寝汗、不眠に悩む人が多い。自分の患者さんの中には、夜は不眠で寝付けず、やっと寝付いたと思ったら寝汗がひどく、起きたら枕が汗でぐっしょりしている。朝から日中にかけては体が睡眠を取り戻そうとして一日中ぼーっとなり、きちんとしたタイムサイクルで生活が出来ないケースが多い。これが毎日繰り返されることは、女性自身の QOL を下げないとでも言えるでしょうか。これら症状を明らかに緩和させ、更年期女性の QOL をサポートするのがHT(ホルモン療法)です。フィンランドでは働く女性が非常に多く、また職場での競争も激しい。特に働く更年期世代女性の健康と労働をサポートするためにも、HT は欠かせません。」
 
では、日々の診療においてはどのように HT を位置づけているのだろうか。また、WHI 後の影響はどのようなものだろうか。
 
イリコルカラ教授は、「更年期女性の QOL を上げるためには、自分は治療にベストを尽くしたい。HT にはベネフィットとリスクも存在することを明確にし、それを十分に患者さんに説明してから治療を行っている。例えば乳がんのリスクについても、目の前にいる患者さん自身が自分の言葉できちんと納得してから HT を処方し、理解してもらってから帰ってもらう」と言う。
 
WHI 後に出された最新の研究やデータについても、イリコルカラ教授は患者さんに分かりやすい言葉に直してから説明をすることにしている。例えば、乳がんのリスクについては、本来は絶対リスクで患者さんに説明すべきであるのに、相対リスクで説明されることが多く、患者さんにより不安を与えている状況がある。このように、患者さん全員が理解してもらえるためには、医療提供者自身が最新の情報やデータを理解し勉強することが必要である。更に教授は、患者さんとのコミュニケーションの技法も併せて工夫することも必要である、と述べていた。この重要性を、医師会や婦人科医とのミーティングや学会でも折にふれて伝えており、自分が受け持っている医学部の授業でも常に強調して教えている、とのことであった。フィンランドでは大学の医学教育においても更年期は必ずカリキュラムに入っており、学生の段階でこのように具体的かつ効果的で、女性の側に立ったコミュニケーション技術を教わることの出来る医学生たちは非常に幸運であると筆者は思う。
 
今回のインタビューで筆者が何より感動を覚えたのは、イリコルカラ教授の医者としてのポリシーである。教授曰く、「自分は婦人科医であることが非常に楽しい。なぜなら、自分が女性の生涯を通した QOL 維持向上に関わることができ、また自分の治療によって患者さん自身の QOL が上がっていくのをこの目で見られるから。」ということである。
 
引き続き次号で北欧視察について報告したい。