海外更年期状況調査報告-9. フィンランド報告その3(2008年11月)

フィンランド女性の HT使用状況

前号では、ヘルシンキ大学中央病院婦人科のイリコルカラ教授とのインタビューにおいて、教 授は、更年期女性の QOL向上・維持を最も重視した治療やヘルスケアを実践している、という内 容をご紹介した。
 
では、実際にフィンランドにおける HTの使用状況や医療環境やどのようになっているのだろ うか。今号ではそれらについて触れたい。
フィンランドでは、HT は 1950 年代に導入された。現在の剤形の種類は多く、経口剤、貼付剤、 ジェル剤、膣剤、子宮内挿入型が一般的に使われており、更年期医療を受ける上で、女性の選択 肢が非常に広いことが推察される。また普及率については、「WHI以降においても HTを受けて いる女性の割合は 50歳から 55歳の女性では約 45%で、10年以上続けて使用する率はそのうち 15%くらいである。」と教授は述べていた。
 
またイリコルカラ教授の患者さんで、70歳以上で HTを継続して使用している女性も多く、中 には 103歳で HTを始めた女性がいる、と聞いた際には筆者は非常に驚いた。同時に、女性が自ら の健康と QOLを高く維持するための意識が高いことにも衝撃を受けた。
このことについて教授は、「国際的なガイドラインでは、HTの使用は 5年以内が望ましく、ま た開始年齢が早い方が安全とされているが、実際の自分の診療では、使用年齢や期限には制限がないと考える」、「つまり、患者さんとじっくりと話し合った上で処方をし、また患者さんも定 期的に受診をするので、リスクについてはほとんど心配していない」、と述べた。
更に、「もし心配であれば、HTの使用を一時的に止めてみるのも一つの方法かもしれない。そ こでやはり以前の更年期症状が出てくることがあり、それが患者さん自身の QOLを下げるのなら ば、またいつでも使用を開始すればよい」という考えである。
教授の通常の診療では、「52歳前後で HTを始め、60歳まで 8年間続けてみる。その後は、ホ ットフラッシュやその他の症状を和らげ、骨量減少を防ぐのに効果のある量まで容量を減らして みるのもよい」、と述べていた。ここでも重要なのは、やはり閉経前と後で QOLを同じに保つの に必要な HTの容量を取り入れることである、と強調していた。
 
また教授は、1回の診療にかける時間は約 20分から 30分で、初診では必ず 30分以上はかける という。フィンランドでも、更年期女性のカウンセリングにおいて、患者の環境や、更年期が起 こるメカニズム、また HT等のベネフィットとリスクについてゆっくりコンサルテーションを行 う必要があるため、時間を要することも事実である。同時に、婦人科で更年期のカウンセリングを受けた場合も保険でカバーされているため、女性たちは医師と時間をかけてコンサルテーショ ンを行い、自分が受ける医療に納得して受診するケースが非常に多いと考えられる。
一方日本では、婦人科でのカウンセリングは保険で適用されず、出来高払い制度の医療システムにおいては、患者と充分にコミュニケーションを取れる診療を行うことは非常に難しい。受診に来た女性が納得するまでカウンセリングを受けることの重要性を、当会では発足当時より提案 してきたが、筆者はその重要性をここで更に再認識した。

 


医療制度について

フィンランドでは、更年期の女性は、通常は一般の婦人科クリニック、または一般医であるGP(General Practitioner)に受診する。その後、症状や治療内容の程度によって、病院の産婦人科にリファーされる場合が多い。
 
それでは、フィンランドではどのような医療制度があるのだろうか。
フィンランドでは、社会保障制度の一つである国民健康保険制度(略称:KELA)があり、更年期に関する医療費・薬剤費もこの制度によって保障されている。フィンランドでは公的医療サービスと民間医療サービスの2種類があり、患者は、希望する診療内容等によって、サービスのどちらかを選択できる。
費用については、同じ GP でも、公的保険で受診する方が民間保険で受診するよりも医療費が安い。更年期で受診をし、薬剤とカウンセリングを含めた場合の医療費の自己負担額は約 10~25 ユーロ(1250 円~3125 円)である(1ユーロ:125 円、2009 年 3 月 10 日現在)。よって、公的保険を選ぶ場合の自己負担額は少ない。
ちなみに民間の GP では、更年期での診察料は約 70 ユーロ(8,750 円)かかるが、そのうち40%が政府によって償還されるので、実際に患者が支払うのは 42 ユーロ(5,250 円)である。これに超音波等の検査を追加するに従い、金額が上がるシステムとなっている。
 
しかし、フィンランドの公的医療保険では、国民は居住地域によってかかる医療機関と主治医が決められているため、公的サービスを受診したくても待ち時間が長く、すぐに診てもらえないという問題も抱えている。
つまり、費用を抑えることを重視するのであれば公的保険サービスを選び、医師との充分なディスカッションや相談を重視するのであれば民間を選ぶ。つまり、患者のニーズに合わせて医療を選べるのである。実際には、最初から充分なコンサルテーションを受ける目的で、民間の婦人科に受診するケースが多い、と教授は言う。また看護師もカウンセリングのトレーニングを受けていることが多いため、先ほど述べたことに加え、カウンセリングのニーズが高いことが考えられる。
また、一般医である GP も HT を処方し、内診も行っているとのことである。婦人科医だけでなく、GP も広く HT の処方をしていることは、フィンランドにおける HT 普及率の高さを示していると考えられる。

 


行政の更年期医療へのスタンス

インタビューの中で、フィンランド行政も更年期医療・HT の普及を支持している、と教授は述べていた。つまり、前号でも述べたが、多くのフィンランド女性は仕事を持ち、職場における競争率も激しい。例えば 50 歳の女性でも若い女性と同じ社会生産性をキープしなければならないため、中高年女性の健康維持は国として重要な戦略の一つといえる。また夫婦においても、高い税金を払うために共働きをせざるをえない状況もあり、女性は仕事を続けている背景がある。そこで、行政においても更年期関連のセミナー実施や講演に力を入れている。
更に、フィンランドの政策として、「予防」に重点を置いている。これは、更年期を含めた、女性の生涯を通したヘルスケアのための施策、として行政で実施されている。例えば、乳癌検診については、2 年おきに 50 歳から 70 歳の女性全員に無料で行われている。子宮がん検診も 5 年おきに、20 歳から 70 歳の女性に無料で行われている状況である。
ちなみに、40 歳前に早発閉経した女性が HT を使用する場合には、50 歳までかかる自己負担額を無料とする、といった制度も実施されている。

 


産業やメディアにおける更年期医療の普及

img-kai9-photo1行政の他に、企業も更年期医療・HT 普及のレクチャーを主催している。イリコルカラ教授曰く、「行政や産学界を含めたフィンランド社会は、女性の健康のレクチャーを実施することで、社会としてのバランスを取ろうとしている」と述べていた。前号でも述べたように、フィンランド社会の女性従業員の数の多さに圧倒されたが、女性の健康レクチャーはフィンランド社会において必要不可欠のものであると推察する。
また、マスコミやメディアにおいても、更年期のことを雑誌等の見出しに見ない日はない、と教授は述べた。非常に頻繁に、更年期関連の記事が取り上げられているそうである。またテレビ番組やトークショー等にも更年期がテーマになることが日常的であるとも言っていた。
 
今回のフィンランド視察で筆者が印象的に感じたのは、社会全体で女性の健康、そして更年期医療を支えている、という意識である。女性が元気で仕事を続け、QOL を高く維持するためには更年期医療が不可欠であり、それが当たり前のことであるように認識されていると感じた。
では、隣国スウェーデンではどのように認識されているのか。次号でお伝えしたい。