海外更年期状況調査報告-4. 国際閉経学会 その1(2008年6月)

IMS総会

前号まで台湾における更年期医療の状況について触れてきた。同様に、他の先進諸国において、更年期医療が広く普及している状況についても触れてきたが、これら他国の更年期医療の状況に ついての調査を進める以前から、筆者には具体的に知りたいと思っていたことがあった。
それらは、「実際のグローバルスタンダードとして、更年期医療がどのように受け入れられているのだろうか?」、「先進諸国での普及状況は高いと報告されているが、実際の女性たちの更年期医療普及状況や声はどのようなものだろうか?」、「各国の専門家たちは、更年期医療にどの ような共通のコンセンサスや理解を持って実践しているのだろうか?」といったことである。
そこで筆者は、それらを探るべく、平成 20年5月 19日~23日までスペイン・マドリードにて開 催された国際閉経学会総会に出席をしてきた。当総会は第 12回を迎え、タイトルは”New Challenges in Women’s health” と題し、5日間開催された。
 
学会総会の実施母体である国際閉経学会”International Menopause Society” は、その頭文字をとっ て”IMS”と称され、著名な学会として知られている。1973年に成立された世界初の更年期医学 会で、本部を英国に置いている。また学会誌”Climacteric”を発行している学会としても高い評判 を得ている。
IMSが出した声明や見解は、世界的にスタンダードなものとして専門家によって認識され、また 活用されていることでもよく知られている。そのため、国際閉経学会総会は、世界の更年期医療専門家が一同に会し、最先端の知見を発表し、また熱い意見交換を行うまたとない機会である。 WHI報告がなされてから筆者もその息吹を少しでも感じたい、日本の女性たちに知らせたいとい う思いでマドリードへ向かった。
そこで、今号は番外編として、マドリッドでのIMS総会の様子について触れたい。

 


マドリッドまで

スペインへは成田からの直行便は現在のところ乗り入れておらず、まずはヨーロッパの各都市まで移動後にスペイン国内に乗り入れる便に乗換えて(ちなみに筆者はウィーン乗り換え)、マド リードに到着するルートであった。ウィーンから飛び立って約 2時間半程、いよいよマドリード まであとわずかとなったときに飛行機の窓から地面を見下ろすと、赤茶色の乾いた広い大地が目に入り、とうとう南欧までやってきた、という実感が湧いてきた。
 
マドリード・バラハス空港に到着したのは深夜近くであり、また今回は同行者なしの単独でマドリードに向かったため、ホテルまで無事辿り着けるのか、と若干不安な要素もあった。実際には無事タクシーもつかまり(ガイドブックによれば深夜着の場合はタクシー以外の交通機関は治安 がよくないとのこと)、何の心配もなくスムーズにホテルまで到着した。東京から約 19時間後、 ようやくマドリッド市内のホテルの部屋に荷物を置いて腰を下ろしたときには移動の疲れがどっ と出た。しかし翌日からの学会総会参加に期待していたためか、疲れはさほど気にならなかった。

 


参加レポート

img-kai4-photo1総会は、マドリード市内から車で約 30分の場所にある Municipal Conference Centerというホールを すべて貸し切って行われた。地下 2階、地上 4階建ての巨大なホールで、中の会場は大小合わせ て10か所程であった。総会のプログラムを見ると、総会開催中はほぼすべての会場において同時 進行で発表や意見交換が行われており、筆者は会場に入るや否や、そのサイズに驚くと共に、プログラムの充実度にも目を見張った。今回の総会プログラムは、IMSのホームページから閲覧することができる。
 
参加者は、世界各国から広く来ており、人種や言語も様々なため、総会での公用語は英語であったが、スペインでの開催であったためスペイン語も非常に多く聞かれた。また南米・中米諸国のスペイン語圏からの参加者も非常に多く、ペルーの閉経学会、ブラジルの閉経学会の各会長が女 性であることも印象深かった。
 
総会開催中は、午前 8時半から夕方まで各プログラムが行われていた。 まずは大会場にて北米閉経学会 North American Menopause Societyの発表を聴いた。テーマは「北米 閉経学会におけるホルモン療法の position statement」についてであり、北米閉経学会によるステー トメントの開発プロセスについて、またこれらをどのように臨床に活用していくかについての内容であった。これらステートメントは現在、北米閉経学会のサイトに掲載されている。
 
その後のプログラムにおいて、諸外国の更年期医療普及状況に関連する発表を聴いた。一つはナイジェリアの女性において、「社会経済クラスによって出現する更年期症状が違ってくる」という発表であった。発表後に、筆者は発表者に質問をしてみた。「ナイジェリアでの更年期医療はどの程度普及しているのか?」回答として、「ナイジェリア社会はいまだ格差が大きいため、相対的には更年期医療に対する意識は高くなく、社会クラスが下になればなるほど医療を受けられ ない現状が多い。クラス毎に所有できる情報に大きな差がある」ということであった。
 
次いで、中東・バーレーンの女性医師によって「バーレーン女性の更年期に対する意識」について発表がなされた。同じように発表者に「バーレーンの女性は更年期をどのように捉えているのか?更年期について話題が上ることはあるのか?」と質問してみた。回答として、「バーレーンはイスラム教国家であるために女性の社会的地位がまだ高くなく、したがって更年期という話題はある意味でタブーであり、一般女性が更年期という言葉を口にすることはあまり頻繁でない」とのことであった。ナイジェリアやバーレーンなどの国々の更年期医療の現状については普段あまり知ることができないため、貴重な情報となった。
 
img-kai4-photo2今回の学会総会参加によって、筆者が受けた最も印象的なメッセージは、海外のスタンダードとして、必要であればホルモン補充療法を使用するのが当然であり、それが女性のQOLに直結して いる、という意識である。もはや医療従事者・あるいは女性側もすでにHRTについては自信を持 って処方・使用しており、そこから容量の増減、剤形をどうするか、というような、もはや啓発 の次のステップにいるのである。
この違いは、どこから生じたのだろう。日本の状況は、まだそこまで意識が揃っておらず、まず は社会・医療従事者・女性に対し、啓発を充分に行う必要があると痛感した。
 
総会4日目の夜に、参加者向けにガラパーティーが開催された。マドリード郊外のサルスエラ競 馬場という現在は使用されていない競馬場を借り切って、参加者同士の交流や出し物などが行わ れた。各テーブルを囲んでいるのも各国からの参加者であり、筆者が座ったテーブルの右隣の席 はイギリス出身のインド系女性医師、そのまた右隣はマレーシアから来た社会学者、そのまた隣 はエストニア出身の医師夫婦、そのまた隣は南アフリカから来た研究者カップル、という顔ぶれであった。
パーティーでの出し物は傑作であった。フィリピン閉経学会会長・ペルー閉経学会会長・ブラジ ル閉経学会会長が(全員女性)であるが、それぞれラテンの歌を披露するというものであった。 この歌を聴いて、会場が熱気に包まれたとき、今回の総会長であるスペイン閉経学会のSantiago Palacios氏から感動的な言葉が送られた。「今日この場にいるみなさんはすべて家族です、これからも更年期という絆でいつまでもつながっていきましょう。」というものであった。この言葉を 聴いて、今回参加して良かった、と心から感じた。
 
総会のプログラムはまだ続き、アジアパシフィック閉経学会の発表では、先だって台湾を訪問し た際にインタビューした台湾更年期医学会理事長の黄國恩医師(Dr. Ko-En Huang)の発表を聴くこと ができた。また最終日の日本更年期医学会の発表や、また台湾の更年期医療状況についても併せ て次号でお届けしたい。