トピックス 「知っておきたい、日本の乳がん検診と治療の最前線(2)」


齊藤光江・乳腺外科医 (順天堂医院乳腺科科長)
三羽良枝 (NPO法人メノポーズを考える会理事長)
(司会)安井禮子(同会副理事長)

進化する乳がん治療−全摘といわれる時―

安井 かつて「乳房温存」が大きな議論になったことがありました。今日の日本の乳がん治療は、どこまですすんでいるのでしょうか。

齋藤 かなりの人々の乳房が温存できるようになりましたね。もちろん、早期発見がすすめばすすむほど、小さく切り取って治せるがんが増えるのは当たり前ですが、そうではないものも乳房温存率は上がっています。たとえば、手術の後に抗がん剤が必要な患者さんを中心に、術前に抗がん剤を使うことでがんを縮め、小さく切る方法が広まっています。欧米でも、この療法で温存率が上がるというデータが出ています。

三羽 乳がんのタイプによって、温存率が変わってくるのですね。
齋藤 乳がんのようすは、タンポポのような植物にたとえることができます。根っこや茎があって、これらが乳管の中の初期のがんの本体、すなわち非浸潤癌。そして茎に花が咲いて実が成り、綿毛が飛ぶ。花というのは、乳管の外に顔を出した浸潤癌。綿毛が飛ぶというのが、リンパ管に入って転移するということです。
もし、大きな花が早く咲いて実を結び、早く種を飛ばすようながんなら、最初に、抗がん剤で飛んだ綿毛、すなわち転移している小さな種を早く退治する治療を行ないます。すると、抗がん剤をやっている間にお花も縮むし、茎や根っこも縮まって小さくなっていくのです。
ところが、花は小さくてまだつぼみのタンポポなのに、根っこがすごく深く張っているという場合があるんです。
安井 つまり、転移の心配が少ないので抗がん剤は必要ないが、根っこを全部取ろうとすると、広い範囲の切除が必要ということなのですか。
齋藤 根を放射線で焼いてみることはできるので、手術は小さめ、すなわち根をある程度残して放射線の効果に期待するというやり方があります。しかし、これは効かない場合もあることを知っておく必要があります。乳房にもう一度がんを患わないようにするには、根こそぎ取ってしまう手術に勝るものはないということになります。特に綿毛が出てないタイプのもの(非浸潤癌)は、根を全てちゃんと取れば完治できるんですね。ちょっと理解しづらいかもしれませんが、初期の癌のほうが、手術だけで完治を目指せるがゆえに、少し大きめの手術を勧められることがあるのです。
三羽 なるほど。そういうことですね。
齋藤 もし、がんのある部分が、乳房の端っこであれば大きく取っても乳首が残るので、形としてはわりとかっこよく納められます。ところが、乳房の真ん中にできていると、根は中心から放射状に伸びていたりして、全摘にならざるをえません。今、かなりの人が温存できるのに、こういう理由ですごく早期の人の中に温存できないタイプの人もいるんですね。
三羽 「がんの根の張り方」などは、見つかりにくいものなのですか?
齋藤 がんの性質によっては、わかりにくいものもあります。たとえば「マンモグラフィで石灰化が見つかった」ということがよくありますね。石灰化しやすい乳がんは、分布が非常にわかりやすいのですが、石灰化しない乳がんというのもあります。これは、マンモグラフィでも裾野のほうが見つかりにくい、根っこが見えないので、わかりにくいんです。
三羽 それは、判断する側の力量も重要なのではありませんか?
齋藤 そうですね、ただ単純に画像を見るだけでは、限界があります。細胞の形態や超音波で得た画像から推理をしなくちゃいけない。その時、「乳腺外科」という自分の領域だけをやっていたのでは、わからない部分もあります。たとえば、「病理」という部門に入り込んで、こういう細胞だと根が長いタイプだなとか、乳がんの性格を細胞形態から推察することも大切です。そうした時に、やはり修練によって多少違いが出ます。さまざまな分野を広く勉強していかないといけません。

あらゆる面から心配をなくすために

安井 摘出せざるをえない方には、どのように対応されているのですか?
齋藤 まず、「形成外科で再建ができる」という情報ですね。手術が組まれてからではなく、告知の時に、そういう手段があることをお伝えします。たいてい、手術まで1〜数週間の待ち時間があるので、その間に形成外科に行き、どういう形になるのかなど相談にのってもらっています。
三羽 それは心丈夫な、患者さんの立場に立ったインフォームドコンセントですね。
齋藤 あらゆる面から、患者さんの心配をなくしてあげようとするなら、医療者もそれだけの準備をする必要があります。患者さん達は、やはり気持ちが落ち着くまではすごく不安で、そこで間違って違う方向にいってしまうこともある。そこで医療者は大変なんですが、最初の時期にありったけの情報を提供して迷い子にならないように、なるべく苦しい時期を短くしてあげる、ということが大切だと思います。

情報を集め、どうしたいかを選び取る

三羽 女性達はどこに受診したらいいかが問題ですね
齋藤 いろいろな医者にかかると、みんな違うことを言う、とおっしゃる患者さんがいます。たしかに、医師は自分の得意分野を中心に話すことが多いので、多少違ってくるんですね。たとえば、「なるべく実だけをとって、根は残し、乳房を残しましょう。そのかわり放射線をかけてカバーします」という考えの医師もいます。その一方で「なるべく根までちゃんととって放射線をかけないほうがいい」という考えの医師もいる。
放射線をかけなかったほうは、放射線をかけなかったというメリットがある。放射線をかけたほうにも、違ったメリットが得られます。放射線をかけなかったメリットというのは、乳房の喪失感とひきかえ局所再発率が最低に抑えられるということと、乳房再建が可能だということ。一方、放射線をかけるメリットは、温存術ができたということと、例え乳房内に局所再発しても、遠隔転移と違ってそのことが寿命を変えず、納得づくで乳房切除を受けられることです。
安井 医療を受ける側としては、どの安心を選ぶのかという選択が求められる―。
齋藤 患者さん達も、自分がどうしたいのか、乳房をすごく残したいのか。または潔くとって新しい乳房のほうが安心して過ごせるのか。一部分を残して放射線をかけて安心するという考えもありますし。いろいろな折衷案で折り合いが着いていくのが現実のところです。

乳がんは予防できるのですか

安井 つい最近も、CNN配信の情報を見ていたら、「1日2杯以上のアルコールを飲む人たちは乳がんのリスクが高く、1杯増えるたびに10%リスクが上がる」という調査結果が出ていました。食事やアルコール、喫煙などの生活習慣とがんの予防について、さまざまな情報が出ていますが。

齋藤 予防はまだできないと言わざるを得ないのです。原因が分からないですから。
ふだん我々が食べたり飲んだりしているものの中に、これをとると乳がんのリスクが減るとか増えると言われているものはたくさんあります。でも、本当にアルコールの何がどうしていけないのかとか、脂肪の多い食事がどこをどうして発がんにかかわるのか、それはまったく解明されていないんです。
そこがわからないと一次予防、つまりがんの発生を阻止するということはまだできないといわなくちゃいけないと思います。

三羽 食事について、もともと日本人の食生活はいいのではないかと言われてきましたが。
齋藤 繊維の多いもの、油脂の少ない食事、それはおそらく発症には多少関わっていると思います。ただ、再発には全然関係ない、というレポートも出ています。

怖れずに、前向きに検診を受けましょう

三羽 乳がんの大きさが何センチまでなら助かる、いやそうではない、とか、女性たちの間でも情報が飛びかっています。でも、さきほど先生がおっしゃったように、治療法がどんどん進んでいるのですから、自己判断で自分を追い詰めてはいけませんね。
齋藤 そうですね。私は、いらっしゃった患者さんが、どんなステージの方でも全部助かると思って治療しています。あきらめなくちゃいけない人は一人もいないと思います。もちろん、何を目標におくかということも大切。完全にがんを消失させるということを目標とすれば、難しい人もいます。
これは抗がん剤との相性でもあり、まだまだ私たちの持っている治療手段というのは、すべての方達のがんを一掃するようなところまではいっていません。
ただ、うまくつきあっていく時間をなるべく長く持つという意味では、かなり多くの人たちが成功できるようになってきています。
安井 うまくつきあいながら、新しい治療法を待つということもできるかもしれませんね。
齋藤 これから先は、もっと、個別化した医療がすすんでいくでしょう。たとえば、これまでどんな抗がん剤も合わなかった人たちにも、その人のがんのこういう特徴を狙ったという治療薬が考えられつつあります。すぐには難しいのですが、今、製薬会社が一生懸命、候補になる薬を育てようとしているところです。
齋藤 今、全国の病院でマンモグラフィやエコーなど、より精度の高い画像機器の整備が行なわれていますね。次のステップとして、がんの性格を見ることや治療法について、専門家がかなりのレベルに揃うようになると考えています。時間はかかりますが、整備段階だと言えます。
三羽 私たち女性は、恐れることなく、前向きに積極的に乳がん検診を受けていきたいですね。
今日はありがとうございました。
(インタビュー:2007年10月9日)  
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