
先進諸国のホルモン補充療法(HRT)普及率は30〜40%なのに対して、日本の場合は2%弱という極端に低い状態が長年続いています。
その要因には、更年期医療は経営上不利(儲からない)という制度的な問題、総合的にとらえるのでなくリスクだけを重視する思考傾向、そして2002年の米国・WHI報告で乳がんなどのリスクが高まるとされたことの影響などがあげられます。
しかし、HRTをめぐる世界の流れは、今年5月にスペインのマドリッドで開かれた国際閉経学会での報告を含め、より適切な使い方を主なテーマに、再評価へ向けて大きく動き出しています。
その具体例の1つが、2007年に国際閉経学会(IMS)が発表した指針。
この指針について、小山嵩夫先生がまとめたポイント(「更年期と加齢のヘルスケア2008 vol.7」)から要点をひろうと――よくある質問「HRTはいつまで続けてよいのですか」に関連しては
『HRTの投与期間に一律な制限を設けてはならない』
となっています。いつまで投与するかは
『個々の症例ごとに検討して決める』
として、5年間とするといった記述はありません。
また、「60歳代でもHRTは始められますか」という質問も電話相談などに寄せられますが、
効果については
『60歳代で始めた場合の効果は50代で始めたときよりは減少する』
としています。適している開始年齢は
『閉経後数年以内、少なくとも50歳代』
とされ、
『長期投与で骨密度の改善、心臓を守り、物忘れ予防、糖尿病や大腸がんの発症率の低下などに有効』
としています。しかし、60歳代では中止すべきとはなっていません。
「乳がんが心配」というのは最も多い女性の声ですが、
『リスクの説明にはパーセントではなく、絶対数で説明する』
としているのも特色です。
ちなみにWHIの乳がん増加のデータを日本に当てはめると、1年間に対照群(HRTを受けなかった群)では1万人で8人が乳がんになるのに対して、HRTを受けた群では11人。
3人増加するリスクをどう受け止めるかですが、がん化のメカニズムの研究者である児玉昌彦氏が最近出した一般向けの本「長生きにはわけがある」(大月書店)によると―
「若さを保つには」の項で著者はホルモン補充療法に触れ、乳がんや子宮内膜がんのリスクを上げるのではと躊躇する動きもあるが、「2倍以下のリスク増加なら、マイナス効果よりプラス効果を評価すべきでしょう」と述べています。がんの専門家の考え方としてわかりやすい目安と思われます。
7月14日付日経新聞夕刊によると、日本産科婦人科学会と日本更年期医学会は共同でホルモン補充療法の指針をまとめ、来年から医師に配布することになったそうです。記事によると、投与年齢は60歳まで、投与期間は5年以内となったとのこと。
今後学会の正式発表を待つこととなりますが、IMSの指針などとも矛盾しない、日本女性の健康に長く寄与する、使いやすい指針を望みたいところです。
近頃つくづく思うのは、HRTは女性の社会貢献を支援する医療であるということ。社会貢献とは、仕事や家事や地域での役割など、家庭や社会のあらゆる場面で自分の持てる能力、言い換えれば「人間愛」を発揮すること。そのためにも、更年期からこそ、自分に合った選択で前向きに歩みたいものです。
(メノポーズを考える会副理事長・医療ジャーナリスト 安井禮子)