かゆみ、渇きの症状(皮膚のかゆみ、湿疹、口が渇く、味覚異常、ドライアイ、その他ドライシンドローム)
目次
皮膚はエストロゲンの影響を強く受ける
ドライシンドローム(乾燥症候群)とは、ドライスキン(肌の乾き)、ドライマウス(口の渇き)、ドライアイ(目の乾き)、ドライバジャイナ(腟の乾き)の4つをあわせていいます。中でもドライスキンについては、閉経する前の40代後半から、皮膚の乾燥によるかゆみや湿疹を強く感じる人も多いようです。このため。以前から使っていた化粧品なのにかゆみが感じるようになったとか、首回りなどがちくちくして着られる服が限られるなどの生活の不便を感じている人もいます。
エストロゲン減少で皮膚の潤いが低下
エストロゲンは、子宮や卵巣だけでなく骨、心血管系、脳、腟・尿道・膀胱の一部、そして皮膚にも重要な作用を持ち、皮膚では、潤いを保持しているコラーゲンの合成促進や皮脂腺の分泌抑制に作用します。皮膚はエストロゲン受容体が多い場所であり、全身を広く覆っている大きな臓器です。そこで、エストロゲンの減少は皮膚の繊細なところに影響を与え、かゆみやかさかさ感などとして感じられるといえます。
HRTは皮膚粘膜の乾燥を防ぐ
こうした更年期の皮膚・粘膜の乾燥からくる症状に対して、HRTは改善効果があることが報告されています。人差はありますが、「くすみが取れて顔色が明るくなった」という実感を持つ人もいるようです。ただし、もともとの肌のきめ細かさや肌タイプもあり、美肌を決めるのはエストロゲンだけではありません。美肌を目的としてHRTを行うほどの効果は認められていないといっていいでしょう。
肌に合う衣類、石けん、化粧品を見つけよう
「かゆい」と感じるとき、皮膚の水分量が減り、皮膚のバリア機能が低下した状態です。かゆいからとかいてしまうと、さらにバリアが壊れて炎症を起こし、湿疹やかぶれが起きてしまいます。更年期の皮膚は、乾燥のためにこうしたトラブルが起きやすいとき。ていねいに保湿をするとともに、必要に応じて麻や木綿など天然素材の服を選んだり、刺激の少ない基礎化粧品を探すなどにもこれまで以上に気を使ってみてください。自分に合う生活用品を見つけておくと、これから先、心地よく過ごすためにも役立ちます。
女性の抜け毛とエストロゲンの関係
頭髪には発毛サイクルがあります。正常時には2~6年ほどの成長期を経て髪が抜け、抜けた毛穴からは3~4か月たつとまた生えてきます。男女とも、加齢に伴って髪が薄くなっていくのは、この成長期がどんどん短くなっていくからと考えられています。生えても早期に抜ける髪が増えて、結果的に毛の本数が減り全体が薄くなってしまうのです。
女性の場合、エストロゲンが髪の成長期を長く保たせる働きをするとされています。このため、40代に入りエストロゲンの分泌が減少してくると、抜け毛が増えるとともに髪質が変わり、細毛や軟毛が増えてハリやコシがなくなってしまうようです。ただし、皮膚と違って毛髪の問題はHRTに効果があるという明らかな報告はないようです。
頭皮の血行を促進するには
頭部の血流が悪くなると毛根にも栄養が行きません。頭皮マッサージ(スカルプケア)で頭部の血行をよくし、毛穴がつまるもとになる脂分を取り除く役割があります。肩こりや目の疲れ、頭重感のある人は、頭皮の血流も悪くなっています。血流をよくすれば抜け毛がなくなるということまではいえませんが、悪化させないためには、毎日軽く体を動かす習慣をつけるなどして肩こりを改善し、頭皮の血行が良くなる工夫も心がけてみてください。
毛染めはどうしても髪に負担がかかります。髪が弱っていると感じるときは回数を減らしたり、自分の肌に合った刺激の少ない成分を選ぶのもいいでしょう。
ドライマウス(口の渇き)、味覚異常、舌痛症
ドライマウスは、唾液が出にくくなるために起こります。緊張すると口の中がカラカラに乾くことがあるように、唾液分泌は自律神経の中でも交感神経の影響を受けています。つまり、更年期のドライマウスはホットフラッシュ(発汗)や動悸、ほてりと同じように、エストロゲンの減少により自律神経の不調が起こり、唾液の分泌に影響していると考えられます。
唾液が出ない、飲み込みにくいを放置しないで
唾液が減ると口の中の清浄作用が少なくなり、虫歯や歯周病のリスクも高くなるし、「口の中にいつもイヤな味がする」という味覚異常や「舌がピリピリする」(舌痛症)などの知覚過敏が起きることもあります。また、「舌がはりついて話せない」「(食べ物を)飲み込みにくい」など生活にも支障が出て、落ち込んでしまう場合もあるのです。これらはオーラルフレイルといって、全身の老化に大きく影響することがわかっています。
更年期症状としてのドライマウスは、HRTで改善効果があることが認められています。しかし、口の中が渇く原因にはシェーグレン症候群や糖尿病などもあります。解決策を見つけるためにも、一度歯科を受診してみてください。
更年期は歯周病にもなりやすい
「歯ぐきが下がってきた(歯が長くなったように見える)」「歯がムズムズする」「強い口臭」などは、歯周病の可能性があります。口の中に蔓延した歯周病菌によって歯周組織(歯ぐき)に慢性的な炎症がおこるもので、炎症がすすむと歯を支えている歯槽骨が溶けて歯並びが悪くなり、ついには歯が抜けてしまいます。
男女とも、30歳ぐらいまでは虫歯のために歯がなくなる(抜歯する)人が多いのですが、40歳を過ぎると歯を失う最大の原因は歯周病です。女性の場合、40代からの歯周病の増加は、エストロゲン減少の影響を受けているとされています。エストロゲンは非常に強い免疫物質のため、更年期以降にエストロゲンがなくなると全身の免疫能が下がりますが、口の中でも同様で炎症物質が増えて歯周病にもなりやすいというわけです。
歯周病を防いで全身の病気と老化を予防しよう
歯周病は、全身の健康にも影響することがわかってきました。歯周病の原因菌が歯ぐきの毛細血管から全身の血管に入り、心血管疾患や糖尿病、誤嚥性肺炎、そして認知症にも関係するとされています。更年期以降は血圧や中性脂肪値が上がり、女性も生活習慣病のリスクが高まりますから、歯周病の予防にも気を付けたいのです。
調子が悪いと歯みがきをするのもおっくうになるかもしれませんが、歯周病菌はとくに歯と歯ぐきの間にたまったプラーク(歯垢)に繁殖します。プラーク(歯垢)を残さないために、歯と歯ぐきのすきまを歯ブラシや歯間ブラシで磨く習慣をつけましょう。「歯が浮く」「歯ぐきがぶよぶよする」などの不調を感じたら早めに歯科医を受診し、日頃のオーラルケアにも気をつけましょう。
ドライアイ、目の疲れ
「チカチカ」「ショボショボ」「まぶしい」など人によって表現はさまざまですが、目の粘膜の乾燥からくる症状と思える訴えもよくあります。目が疲れて本が読めなかったのに、他の症状のためにHRTを始めたら、また読めるようになったという声も寄せられています。一方、目の疲れは、老眼や乱視が影響する場合もあります。「更年期のせいか目が疲れてしかたがない」という訴えの後日談として、「眼科で検査を受けたら、遠視に乱視が入ってメガネがあわなくなっていた。正しく調節してもらったらすっきりした」というものもありました。
スマホやパソコンの画面は明るく発光している上に、人は画面を凝視するとき瞬きの回数が減るので、涙の数が減って目が乾燥しやすくなります。そうした目の問題は肩こりや頭痛にもつながります。また、電車や公共施設の中などでエアコンの風をいつも目に受けていることも、眼には負担です。「スマホを見るのは●時まで」という制限を作るとか、夕方、蒸しタオルを目の上にあてて目をホットパックするなどの工夫も取り入れてみてください。目を酷使する時代だからこそ、さまざまな情報を集めて目を大切にする行動をとりましょう。
【みんなが感じているかゆみ、渇きの症状】(当協会電話相談より)
皮膚のかゆみ、湿疹
40代後半になり、外に出て日に当たると肌が赤くなり、ちくちくとかゆくなるようになった。蟻走感、のぼせもある (48歳・未閉経)
1年も前から首のまわり全体に湿疹ができ、皮膚科でいろいろな薬をもらったが治らない。周囲に気づかれないようにタートルネックをずっときているが、かゆくて仕事にさしつかえるし、着るものが制限されるのが困る。(49歳・未閉経)
2年前から湿疹ができはじめ、おなかのまわりから胸、首、顔とできる場所がだんだん上に上がってきている。今は目や口のまわりにもあり、かゆみとほてるような熱さがあってとても我慢できない。(51歳・閉経50歳)
10代の頃はアトピー性皮膚炎があったが、20~30代はおさまっていた。40代半ばに入って再びひどくなり、足の指先以外は全身に広がっている。ふとんに入るとかゆくなり、かゆみで毎日3時間ぐらいしか眠れない。(52歳・閉経50歳)
口が渇く、のどがいがらっぽい、味やにおいの違和感
半年前から口が渇いて、味がわからなくなった。何を食べてもおいしくないし食事が作れない。今は仕事もしていないので家族のために食事ぐらい作ろうと思いますが、味に自信が持てないことでこんなにも支障が出るとは知らなかった。(52歳・閉経51歳)
最近、口やノドがねばねばし、口の中がまずい。歯肉が下がってきてたまに歯がうずくが、虫歯はないと言われている。(56歳・閉経50歳)
2年前ぐらいからつばが出にくく、口や喉が渇いてざらついているように感じる。声がかすれて出にくくなった。(48歳・未閉経)
においがとても鼻につくようになった。夕方、よその家の台所からただよってくるにおいだけで気分が悪くなり、吐き気がしてくることもある。台所用洗剤のにおいまでイヤで洗い物もしたくない。(53歳・閉経48歳)
食べ物の味がわからなくなっている。味覚障害だと思い内科を受診したが、「舌症関連の原因はない」と言われた。めまいやのぼせも感じるので、これも更年期なのだろうか。(53歳・未閉経)
ドライアイ、目の疲れ
40代半ばごろ新聞などを少し読むだけで目が疲れ、目が乾燥しているのではないかと思っていた。その後、口や目の回りにかゆくて赤い湿疹が出るようになり、皮膚科でアレルギー用の塗り薬をもらっているがよくならない。(50歳・未閉経)
ドライアイと頭重感がありテレビを見るのも疲れる。健康診断では内科の異常はなかった。(54歳・閉経51歳)
眼鏡の度はあっているはずなのに、少し長くかけていると目が痛くなり、充血するようになった。読みたい本があるのだが目が疲れるので最近めっきり読まなくなった。(49歳・未閉経)