ホルモン補充療法(HRT)
HRTとは
女性は更年期を迎えると卵巣機能が低下しはじめ卵巣から分泌される女性ホルモンの一つであるエストロゲンの分泌が揺らぎながら低下し、ココロとカラダに様々な不調が現れます。そして閉経を迎えると卵巣機能は停止しエストロゲンは欠乏してしまいます。
HRTとはHormone Replacement Therapyの略でホルモン補充療法のことです。HRTは卵巣機能の低下などからエストロゲンの分泌が低下し欠乏することで引き起こされる様々な症状や障害を、エストロゲンを必要最低量補うことで治療するという大変シンプルで理にかなった療法です。
HRTは海外で1930年ころから開発が進み、そのベネフィットやリスクが世界中で何度も検証されて来た歴史があります。そのたびにHRTは改良され進化し続けていますが、このことはHRTに代わる治療法がほかにはないことを物語っています。
このようなことから、HRTは更年期やそれ以降の健康管理を考える世界中の女性にとって欠かすことのできない大切な選択肢の一つになっています。
HRTに期待されている効果
エストロゲンは女性のほぼ全身の器官に作用し女性の健康を守る働きがあるため、エストロゲンの低下やその後続くエストロゲンの欠乏状態は、更年期障害だけでなく更年期以降に顕在化してくる骨粗しょう症や動脈硬化など様々な症状や障害も進行させてしまうことが分かっています。
逆にエストロゲンを適切に補うことは、このようなエストロゲンの低下や欠乏による様々な症状や障害の治療や予防に効果があることが分かっています。
現在HRTに期待されている効果としては、①更年期障害を緩和する、②骨密度を増加させる、③脂質代謝や糖代謝などへ良い影響を与える、④血管のしなやかさを保つ、⑤更年期の抑うつ気分を改善する、⑥皮膚のコラーゲンを増やし肌の潤いを保つ、⑦大腸がんのリスクを低下させる、など多岐に及びます。
HRTの副作用
HRTは服用初期に不正出血や乳房の張りなどのマイナートラブルが起こりますが、ほとんどの場合は服用を続けるうちに治まります。なお、HRTと聞くと乳がんを心配される方も多いと思いますが、HRTによる乳がんリスクの上昇は生活習慣などが原因による乳がんリスクの上昇と同等かそれ以下ということが分かってきたので、現在ではHRTによる乳がんリスクへの影響は小さいと言われています。乳がんに関しては、日本でもその患者数が増えていますので、HRTをするしないに関わらず定期的な検診が重要です。
なお、HRTはエストロゲンを補うことが大きな目的ですが、エストロゲンだけでは子宮の内膜が増殖してしまい子宮内膜癌のリスクが高まってしまうことから、子宮のある人にはもう一つの女性ホルモンである黄体ホルモンを一緒に補う方法がとられます。
黄体ホルモンは子宮内膜を保護する作用があるため、黄体ホルモンを同時に補うことで、子宮内膜癌のリスクは抑えられることが分かっています。
2017年には日本産科婦人科学会と日本女性医学学会が編集/監修した「ホルモン補充療法ガイドライン」が最新のエビデンスや国際的なコンセンサスを基に改訂発刊されており、このガイドラインにより、より安心により安全にHRTができるようになっています。
HRTの実際
現在日本で使用できるHRTには、経口タイプのもの、貼るタイプのもの、塗るタイプのものなどがあり自分にあったものを選択することができます。
使用方法に関しても、自分にあった用量や飲みかたを選べるようになっています。
ただし、HRTもほかの医薬品同様医師の処方が必要な治療法ですので、実際に使用する際は、医師との問診で使用目的を確認し、必要な検査などを受け、ベネフィットとリスクを十分理解することが必要です。
また、HRTを始めるタイミングに関しては、海外の報告では50歳代からのHRTは動脈硬化を抑え冠動脈疾患を予防しますが、60歳以上で開始すると増加してしまう可能性があるので早くに開始したほうが良いと言われています。しかし、それ以外の効果については何歳で始めても予防・改善することができるので、治療目的があって、ベネフィットがリスクを上回っていればいつでも開始できます。
また、止めるタイミングに関しては決まった年数などはなく、使用する目的がなくなればいつでも止めることはできますし、続けたい場合は少なくとも1年に1回医師と治療目的の確認とベネフィットがリスクを上回っていることを確認できれば継続できます。
HRTの使用者の声
HRTを使用した人は、「更年期障害が緩和した」、「骨量が改善した」などの治療効果はもちろんですが、「元気になった」、「気持ちが明るくなった」、「仕事や趣味に積極的になった」など、前向きなコメントをされる方が多いことも特徴的です。
HRTに関しては、使用者の声から疑問や不安にこたえる「ホルモン補充療法(HRT)がよくわかるQ&Aハンドブック2019」が当協会から発刊されていますので、ご覧いただければ幸いです。
一般社団法人 日本女性医学学会認定女性ヘルスケア専門薬剤師/松原 爽