とにかくだるい、疲れがとれない、疲れすぎて眠れない、頻尿・残尿感…etc 更年期から先の50・60・70代に多い不調に試したい漢方薬

監修 扇内美恵先生 扇内医院院長(東京都練馬区)
(産科・婦人科、漢方外来があります)
⇒扇内医院
目次
体調の変化によって漢方薬も選び直す
「更年期が過ぎたら体もラクになると思っていたのに、60代に入ってもまだ不調が続いています」
という声が、電話相談にも寄せられることがあります。
50代は、女性ホルモン分泌が変動しながら減少していく時期で、ホットフラッシュやのぼせ、動悸、息切れなどの更年期症状を強く感じやすいときです。
一方、60代に入ると、ホルモン変動の時期は過ぎ、ホットフラッシュなどの血管運動神経症状は落ち着いてくる傾向にあります。しかし、ホルモン低下による影響が長期的に続くことや、加齢による体力低下で、新たな問題や慢性的な不調が現れることもあります。
「更年期からずっと体調が悪い」とひとくくりに考えないで、どんな場面でどんな不調が起きているかを整理し、漢方薬の種類なども見直してみるといいでしょう。
更年期の不調によく使われる漢方薬として「当帰芍薬散」「加味逍遙散」「桂枝茯苓丸」が知られています。これらは、症状や体質に合えば60代以降も有効ですが、それに加えて、ここでは更年期以降~高齢期の不調によく使われる漢方薬をとりあげました。
疲れやすい、疲れがとれない、いつもだるい
加齢とともに、若い頃のような体力や生命エネルギー(気・血・津液)が不足しがちなため、「疲れやすい」「疲れが取れない」という現象が起きやすくなります。
たとえば、風邪などでちょっと寝込んだり、心身にストレスのかかる出来事があったりすると、いつまでもその疲れが体に残り、朝起きられなかったり、何をするにも気力が出ないということになったりします。
「十全大補湯」や「補中益気湯」にある「補」とは、気(エネルギー)を補うという意味です。そこで疲れがなかなかとれないなどのエネルギー不足を補って、元気を取り戻すのに適しています。
◎十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
「大きく(全)補う」という名前の通り、体が衰弱しきって疲れが取れないときに用いられる代表的な漢方薬です。
たとえば、大きな病気や手術の後などは、体に力が入らず、「足腰が立たない」「足元がふらつく」というほどのだるさや疲労感があります。病後や術後でなくても、「とにかく疲れて起き上がれない」という疲れが続くときには、ためしてみるといいでしょう。
体が冷えやすく、手足も冷たいと感じる方の疲れ、寝ている間に汗をかく「寝汗」も、体が弱っているサインであり、十全大補湯が用いられることがあります。
◎補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
補中益気湯も、疲れやすく元気がない、体力消耗などによく用いられる漢方薬です。補中の「中」とは胃腸を表す言葉で、特に「食欲不振」「胃腸の働きの衰え」が疲れやだるさの背景にある場合に、いい効果があるといえます。
夏は冷たいものを摂りすぎたり、冷房で体が冷えすぎたりして、胃腸の働きが弱りやすい時期でもあります。このように夏バテによる消耗にも、補中益気湯を試してみるといいでしょう。
一方、補中益気湯は、子宮脱・子宮下垂、脱肛などにも効果があるとされています。これは、補中益気湯が「気」を補い、内臓をもちあげる(下垂を改善する)作用があることによります。

だるくてイライラ、疲れすぎて眠れない、眠りが浅い
イライラや神経過敏、寝つきが悪い、眠りが浅いなどに対してよく使われる漢方薬に「抑肝散」があります。漢方では「肝」は精神や自律神経の働きと関連が深く、ストレスなどで「肝」の気が高ぶると、イライラや興奮などの症状が現れると考えます。
そこで「抑肝散」は子どもの夜泣きや疳の虫(かんしゃく)から更年期のイライラまで、幅広い年代で使われます。
一方、貧血の傾向があって疲れやすく、考えすぎたり悩みすぎて、不安や不眠が生じているタイプでは、「加味帰脾湯」がよく使われます。
◎抑肝散(よくかんさん)
比較的体力は中等度で、神経がたかぶり、怒りっぽい、カッとなって歯ぎしりをするなどのイライラ、興奮して寝つきが悪い、眠りが浅いなど、高ぶった「肝」の気を抑え、乱れた「気」の巡りを整えることで精神的な安定を図ります。
◎加味帰脾湯(かみきひとう)
消耗感や気力不足からくるあせりや、漠然とした不安がイライラを起こしており、爆発的な怒りというよりは、クヨクヨと考えすぎていたり、ささいなことが気にかかって眠りが浅い、抑うつ状態のときによく用いられます。
胃腸虚弱で顔色が悪く、唇や爪の色が薄いなど貧血っぽい症状が見られることがあり、加味帰脾湯は胃腸を養い、心身の疲れや精神の不安定を改善する漢方薬です。
疲れがひどく体力が低下し、不眠や神経過敏があるとき、十全大補湯と加味帰脾湯を合わせて処方されることがあります。(※漢方薬には飲み合わせがあり、効果が強く出すぎたり逆に弱まったり、副作用が出ることもあります。2剤を合わせて飲むときには医師に相談してください)

残尿感、尿が出渋るなどの尿トラブル、腟炎、おりものなど
60代以降に起きやすくなる不調の一つに泌尿器と腟のトラブルがあります。
トイレに行ってもすっきりしない。すぐトイレに行きたくなる(頻尿)。尿が出渋る、残尿感があるなどで、これらの不具合がある人で膀胱炎を繰り返している場合もあります。
これらの症状は、漢方医学では「腎(じん)」の加齢による機能低下、つまり「腎虚(じんきょ)」という状態が関係していると考えられます。
腎虚は、足腰の痛み、冷え、むくみ、精力減退など、さまざまな老化現象として現れます。
そんな腎虚の症状に用いられる漢方薬の代表として、「八味地黄丸」と「牛車腎気丸」があります。
女性では、尿トラブルだけでなく、萎縮性腟炎に伴う乾燥、かゆみ、おりものの変化といったエストロゲン減少による腟の問題にもよい効果が期待できます。
漢方薬が直接的に女性ホルモンを増やすのではありません。あくまで漢方的なアプローチで、体質や体全体のバランスを整えることで症状の改善を目指します。そこで、腟炎でエストリールなどの弱い女性ホルモン剤を処方されている場合にも、漢方薬を併用することができます。
◎八味地黄丸(はちみじおうがん)
約1800年前の中医学の教科書にも登場する歴史のある漢方薬で、8種類の生薬(ジオウ、サンシュユ、サンヤク、タクシャ、ブクリョウ、ボタンピ、ケイヒ、ブシ末)で構成されています。
体力が中等度以下で疲れやすく、体が冷えやすい方の、特に下肢の冷えに伴う腰痛、下肢痛、足のしびれ、老化現象としてのかすみ目、かゆみ、むくみ、高血圧に伴う肩こり、耳鳴りにも有効です。
咳やくしゃみなどで少し漏れてしまうような軽い尿漏れから、残尿感、日中の頻尿、夜中に何度もトイレに起きる(夜間頻尿)、日中もトイレが近いといった症状を和らげます。
八味地黄丸は炎症を鎮める作用があり、萎縮性腟炎による腟壁の炎症を抑えて、かゆみやおりものなどを改善するという報告が多く見られています。
◎牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)
八味地黄丸の8種類の処方に、牛膝(ごしつ)と車前子(しゃぜんし)が加わることで、余分な水分を排出し、血行を促進する作用が強化されています。これにより、八味地黄丸よりも、尿トラブルや足腰の痛み、しびれなどに対してより強く働くと考えられています。
腟の乾燥やかゆみ、むくみが強い場合には、八味地黄丸の効能にあわせて、牛車腎気丸の血行促進作用、水分排出作用が効果を発揮すると考えられています。
◎清心蓮子飲(せいしんれんしいん)
胃腸が弱く疲労感があり、口や舌が乾きやすい。頻尿、残尿感、排尿痛、尿のにごり、排尿困難などの尿トラブルやおりものがあり、同時に不安やイライラ、不眠などがあるという、泌尿器と精神的な不安定さが同時に現れる場合によく処方される漢方薬です。
「清心」とは、「心」の熱を冷まして心身の高ぶりや炎症を鎮め「水」のバランスを整えて清涼にするという意味であり、「蓮子」は主薬のひとつのハスの実のことを指します。
これらの作用で気を補い、胃腸の働きを助けることで、体全体の疲労を改善します。また、水分代謝を整え、尿路の炎症を鎮めることで、尿トラブルを改善すると考えられています。
ふだん飲んでいる薬もあわせて医師や薬剤師に相談を
このように、漢方薬は個人の体質や全身の状態を見て選ばれるため、「疲れやすい」「冷える」「夜間尿がある」「腰痛」といった複数の症状に同時に対応できることが多く、全身状態の改善につながります。
女性にとっては、HRTなどの女性ホルモン製剤と併用できるのもよい点です。
ただし、自然由来の漢方薬にも、副作用がないわけではありません。個人の「証」に合わないと効果が出ないだけでなく、副作用が生じたり、飲み合わせによって悪影響が出たりする可能性があります。
特に、血圧や血糖値を下げる薬を飲んでいたり、その他の基礎疾患があり薬を飲んでいる人は、市販の漢方薬を試すときにも、一度はかかりつけ医に相談してください。
「効かない」と思うときの相談の仕方は?
「漢方薬は効くまで時間がかかる」とよく言われますが、葛根湯や麻黄湯のように、風邪の発熱などの急性症状に即効性のある漢方薬もあります。
しかし、更年期以降に出やすい腰痛や尿トラブルは、「なんだかおかしいな」と思っているうちにじわじわと症状がすすみ、深刻になっていくことが多いものです。このように、時間をかけて出てきた症状は、治るのにも時間がかかると考えたほうがいいでしょう。
2週間~1カ月飲んでみて「効かないな」と思ったら、そのままあきらめるのではなく、医師に相談してみてはどうでしょうか。
「どんなふうに効かなかったのか」「その他の体調に感じた変化」など体の状態を話し、医師からの質問にも経緯を思い出しながら答えていきましょう。そのちょっとした言葉をヒントにして医師の見立ても変わり、さらに不調にあった漢方薬を出してもらいやすくなります。
