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-専門医に聞く- このページは疾患に関する記事です。

月経前症候群(PMS)、月経前不快気分障害(PMDD)に関する標準治療 

田坂クリニック 産婦人科・内科

田坂 慶一 先生

ご略歴:

大阪大学において不妊症に関する基礎および研究の後、アメリカ合衆国国立衛生研究所客員研究員としてGnRHによるゴナドトロピン分泌機序に関する研究に従事、大阪大学助手、大阪府立成人病センター医長、大阪大学講師、大阪府済生会中津病院産婦人科部長などを歴任の後、平成12年より大阪大学准教授、平成18年12月31日同上退職、平成19年に千里中央にて医院開業(産婦人科・内科)

役職:

豊中産婦人科医会 会長

専門医:

日本産科婦人科学会 専門医 前指導医
日本内分泌学会 専門医(産婦人科) 指導医(産婦人科)
日本産婦人科学会、日本産婦人科医会編「産婦人科外来診療ガイドライン-婦人科編-」作成委員2011,2014

要旨

月経前症候群、月経前不快気分障害は月経前の心身の失調であり、排卵周期を有する多くの女性が訴える症状です。女性が長年にわたって苦しんできた疾患です。1980年代後半から本疾患の研究が進み、2000年代に入って標準的治療方法がほぼ確立しました。本疾患の診断にあたっては正確な症状の解析と重症度の診断、個人、社会生活への障害評価を行い、治療にあたっては患者に疾患本質に関する詳細な説明したうえで各種治療説明を行います。治療にあたっては認知療法、生活習慣の改善をおこなうとともに低用量EP薬(月経困難症に使われるピル)、低用量ピル、抗うつ剤(特にSSRI)を中心に精神安定剤、利尿剤などにより積極的治療を行い、女性の生活の質改善に努めます。もう女性は月経前の症状に悩まされる必要はありません。

1、はじめに

月経前症候群(Premenstrual syndrome, 以下PMS)は月経前3~10日、黄体期の間続く精神的あるいは身体的症状で月経発来とともに減弱あるいは消失するものをいいます。腹痛、乳房緊満感、腰痛、易疲労性、食欲亢進、にきび、吹き出物、眠気などの身体症状とイライラ、易怒性、意欲減退、不安などの精神症状がみられます。

PMSは70~80%の女性に何らかの形でみられる症状です。しかし中等症や重症の例では社会生活上、家庭生活上、障害となる場合があります。うつ状態、焦燥感、不安感、強迫感、自己喪失感、落涙などの精神症状が前面に出る重症例で、社会生活に重大な障害になる場合は月経前不快気分障害(Premenstrual dysphoric disorder、以下PMDD)といいます。

PMS、PMDDは女性が生殖機能を有している限り生理的に起こる身体及び精神の失調です。多くの女性は太古の昔からこの疾患に悩まされ続けてきました。本疾患は時として女性の属性、あるいは特質として受け取られ、我慢するよう運命づけられてきた側面があります。しかし、本疾患により一部の女性では気分のムラや不機嫌あるいは予測不能な行動とるときがあるため、いわれのない誤解を受け、社会において不利な立場におかれた側面もありました。就業継続が難しくなったり、人間関係の構築が困難になったり、就業、学業の妨げになったり、場合により家庭生活に影響を及ぼし、離婚原因になる場合もありました。

この有史以前より長年にわたり、多くの女性を悩ましてきたPMS、PMDDに関して1980年代から多くの原因と治療に関する研究がなされ、2000年代になってほぼ治療法が確立してきました。日本を含め、多くの診療ガイドラインに取り上げられるようになり、基本的な管理方針がほぼ出来上がっています。もう女性はPMS、PMDDで不利益な状況におかれる必要がありません。

本文はこのように月経前の症状に悩まされている、多くの女性が社会において、就業先において、就学先において、あるいは家庭において不利益な思いを抱くことがないように社会の理解が得られ、適切な治療を受けられるよう啓発することを目的として作成いたしました。

2、PMSとPMDDの歴史的経緯

PMSは有史以来(あるいは以前から)歴史上の文献に記載が見られます。紀元前460年にすでに西洋の哲学者により月経発来の前の不調として記載されてます。西暦200-300年には中医学の古典『傷寒論(しょうかんろん)』には月経前に起こり月経がはじまると共に終わる症状ーといった記述があります。およそ1700年前から女性の悩みだった月経前症候群(PMS)だと思われる記載があります。

PMSが西洋で医学的に認められたのは、意外に遅く、1940年代Robet T Frankの月経前緊張症(Premenstrual tension)のホルモン原因説を提唱、1953年Dalton & Green がPMSに関する論文発表を行ってからでです。その後しばらくは、科学的研究が進んでいませんでした。時を経て1980年代から女性の地位向上を契機にPMS、PMDDの研究が進みました。1989年PMS(のちにPMDD)の診断基準が米国精神科学会(American Psychiatric Association 、APA)精神障害の診断と統計マニュアル:DSM)に掲載されました。その後1994年DSM-Ⅳ、2000年DSM-Ⅳ-TRに継続的に掲載され、修正が進みました。2002年選択的セロトニン再取り込み阻害薬SSRI がPMDD治療で初めてFDA承認されました。一方、産婦人科分野では米国産科婦人科学会が2005年Motolaの論文1989をPMS診断基準として採用しました。2006年にDrosp含有低用量エストロゲンープロゲスチン配合薬(LEP、日本では月経困難症治療薬)がFDA承認薬となりました。2007年英国産科婦人科学会がPMSガイドライン、治療を掲載しています。2013年米国精神科学会はDMS-V発行、PMDDを一部修正し、うつ病性分類の中に入れました1)。ここで初めてPMS、PMDDの精神症状部分の本質は周期的うつ状態であることが明確になったわけです。このようにPMS、 PMDDは産婦人科と精神科の相互にまたがる病態ではありますが、重症を扱う精神科が先行、関連薬剤(抗うつ剤 SSRIがPMDDでFDA承認を得た経緯があります。その後、ホルモン製剤であるDrosp含有低用量エストロゲンープロゲスチン配合薬が承認されました。しかし、PMS、PMDDに関する多くの論文が診断基準の明確で重症を扱うPMDDで発表されているので、ほぼ同じ病態の疾患であるにもかかわらず、PMS承認薬はないがPMDD承認薬はあるという問題を起こす結果となっています。2つの疾患は病態が共通していながら、PMSは産婦人科疾患として、PMDDは精神科的症状に主点を置くために一部に精神科疾患として扱われてきた経緯がありました。しかしWHO疾患分類ICD 10以来、精神科疾患とWHO疾患分類の調整が行われ、2019年6月にWHOがICD-11(世界標準の疾患分類)を作成し、PMDDは疾患分類上、初めて産婦人科疾患、精神科疾患両方の分類で併記することを決定しました2)。このことによって研究論文の多いPMDDが産婦人科疾患として対応することに矛盾がないことになりました。いままでわが国では保険適用薬がなかった疾患が正式に適用薬を含めて議論できるようになったといってよいでしょう。今、我々は関係団体を通じてPMDDの疾患名と適用薬の申請作業に入っています。いずれにしてもPMDDが産婦人科疾患として堂々と議論できることは長足の進歩といえるでしょう。

3、どのぐらいの女性がPMS/PMDDの症状を呈しているか? 

PMS、PMDDの頻度は採用する診断基準の違いで頻度は異なっています。PMSでは約50%、PMSの中等症~重症に限ると5~8%、米国産科婦人科学会に診断基準では30.4%、PMDDの基準で調査すれば生殖年齢女性の2~9%といわれています。2000年代初頭、我々は国際的に使われている基準でPMS、 PMDDに関する本邦での疫学的調査を行いました。その結果、PMS中等症―重症の頻度は5.3%,PMDDでは1.2%という結果でした。諸外国の調査が発表されており、社会的背景、宗教的、文化的背景の多少の差はありますが幅広い年代に一定の頻度で患者さんがいらっしゃることがわかっています1)(表1)。後に本邦での高校生の調査が行われていますが中等症以上のPMSが11.3%、PMDDが3.2%と他の年齢よりやや頻度が高いことが知られています。このことは比較的若い年代からの対策が必要であることを示しています4)。我が国の人口構成から推計すると治療対象と考えられる中等症以上のPMS患者は135万人、PMDD患者は 47万人、計182万人いると思われます。我々の調査の時点ではほとんどの人が治療を受けていないことが示されていました。この方たちに光明が差して今までとは違う人生が開ければ、それはすばらしいことです。

4、どうしてPMS、PMDDの症状が起こるのでしょうか? 

PMS、PMDDは閉経女性、卵巣摘出女性には起こりません。発症には排卵により産生される黄体ホルモン、あるいは代謝産物(allopregnanorone)(以後両者含めて黄体ホルモン関連物質といいます)上昇が原因であることに疑問をはさむ余地はありません。症状は黄体ホルモン関連物質の変動に関連して起こっています。最近の研究ではどちらかというと黄体ホルモン代謝産物(アロプレグナノロン)の脳内活動に対する作用という説が主流です。しかし、どの研究でも黄体ホルモン値そのものの異常は認められていません。図1に黄体ホルモン,あるいはアロプレグナノロンの作用の概要を示しました。PMS、PMDDに関連するのは主に性器外作用の部分です。図1に示したように身体症状と精神症状が関わり合い、PMS、PMDDの複雑な身体、精神症状が構成されるといってよいでしょう。黄体ホルモン関連物質が抑うつ作用を誘導するメカニズムに関しては必ずしも明確ではありません。ただし、抗うつ剤、とくにSSRI系抗うつ剤が有効であることから黄体ホルモン関連物質が何らかのメカニズムでセロトニン作動性ニューロンに影響を与えていることが考えられます。つまりPMS、PMDDの精神症状の本質は黄体ホルモン関連物質によって誘導される周期的うつ状態といってよいでしょう1)。かくしてPMS、PMDDでは身体症状に精神症状がいろんなバランスで加わり、複雑な症状を引き起こしていると考えるますと症状をもつ患者様の受け入れが容易となります。臨床的には症状パターンは画一的でなく、ある女性は精神症状が強く出て、ある女性は身体症状が強く出る。いろんなバランスで個々の症状が出るのが特徴であると考えると症状の把握に困ることはありません。共通して言えることはそれらの症状が月経前3~10日から起こり、月経中に軽快することだけです。

5、診断はどのように行われるか? 

PMS/PMDDの診断基準には、先述した日本産科婦人科学会のPMSの用語集、ACOGのPMS診断基準、APAのPMDD診断基準(DSM-Ⅳ-TR)などがあります。ただし、日本産科婦人科学会用語集のPMSの記載は正式な診断基準ではありません。ACOGによるPMS診断基準は身体症状と精神症状に区別され、QOLに対する障害も評価対象となっていますが、基準が甘く、重症度が不明確という点で不十分です。一方、米国精神科学会のPMDD診断基準は評価が厳密であり、治療の効果判定もできるため、最も汎用されていますが、表現がやや堅苦しい問題があります。その後、米国精神科学会の診断基準は精神症状に視点を置きすぎとなっています。そこで筆者はAPAのPMDD診断基準(2000)を患者向けに改変された「PMDDに関する患者のための自己診断アンケート」(表2)を診療時に使用しています5)。症状が気になる方は使ってみてください。

表2 PMDD月経前不快気分障害に関する患者のための自己診断アンケート(DMS Ⅳ TR 2000より)

1)リストAとリストBの中から月経の前に出る症状をチェックしてください。

症状リストA(月経前1週間)

☐ うつ気分や落ち込みが強い
☐ 不安、緊張感、どうにもならない、がけっぷちなどの感情がある
☐ 拒絶や批判に対する感受性が高くなったり、感情的に不安定だったり予測できなかったりする
☐ いらいらしたり怒りっぽくなったりする
リストAの中でのチェック項目数(   個)

症状リストB(月経前1週間)

☐ 物事に対する集中力が薄れている
☐ いつもより疲れているし、活動性が低い
☐ 炭水化物を偏って摂食したり、あるものを食べ続けたりする
☐ 睡眠過多だったり、睡眠不足だったりする
☐ 限界感、自己喪失感がある
☐ 月経前に次の少なくとも2つの症状になやまされる(乳房痛または緊満感、頭痛、関節または筋肉痛ふわふわした感じ、体重増加)
リストBの中でチェック項目数(   個)

2)次の4つの質問にはい、いいえで答えてください

1、リストAとリストBをたすと5項目以上になりますか  はい/いいえ

2、リストAのうち少なくともひとつは当てはまるものがありますか  はい/いいえ

3、あなたのチェックした項目の大部分は月経開始後3日以内に消失しますか  はい/いいえ

4、あなたに上記症状があるときあなたは通常の活動が障害されますか  はい/いいえ

ありがとうございました。もしあなたが4つの質問にすべて当てはまるとしたらあなたはPMDD(月経前気分不快障害)の可能性があります。さっそく医師に受診し問題解決に当たってください。

6、どうしたら症状を抑えることができるの? 

本疾患の治療をおこなうにあたっては本疾患の本質をわかりやすく説明し、多くの女性が大なり小なりもつ症状が当該患者様の場合は強く出ていること、重症度の判定では重症の場合は軽症でよく見られる症状とは一線を画し、治療を受ける必要がある症状であることをまず説明し、理解していただく必要があります。また本疾患はその女性の欠点ではなく、精神的に弱いとか不安定だからというのでおこるのではなく、ホルモン周期に連動して脳内の化学的変化によって起こり、治療可能な医学的疾患あるいは状態であることを説明します。

治療はカウンセリング・生活指導と薬物療法に分けられます。生活指導としては,まず症状日記を付けていただき、疾患の理解と頻度、発症に時期、本人に重症度の位置づけを理解していただく。規則正しい生活、規則正しい睡眠、定期的運動、たばこ、コーヒーなどの制限をすすめる。重症の場合、症状発現時(月経前)には仕事の制限、家庭生活の責任軽減などまで踏み込んだ指導が必要なこともあります。

PMS/PMDD薬物治療の基本的考え方を図3に示しました。まず第1は内因性プロゲステロン関連物質産生抑制による治療、排卵抑制(DRSP含有LEP、OC、LEP)、卵巣機能抑制(GnRHアゴニスト)卵巣摘出など、第2にプロゲステロン関連物質の作用を中枢で抑制する方法、SSRIその他などです。そのほか黄体ホルモン受容体拮抗薬の性格を持つ利尿剤などがあります。軽症の場合は対症療法で対応してもよろしいかと思います。対症療法として精神安定剤(Alprazolam)、利尿剤(spironolactone)、鎮痛剤、漢方薬、西洋ハーブ、プレフェリンなどを適宜用います。中等症~重症PMS、PMDDで根本的治療が必要な場合、精神症状に対してはSSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors:セルトラリン、パロキセチン、エスシタロプラムなど)が主な治療薬であり、2002年FDA承認薬となっています1)。SSRIは黄体期のみに投与することで有効であることがわかっています。その点、効果発現に2週間以上必要な、うつ病の治療方法とは明確に異なります。パロキセチン以外のSSRIは妊娠希望女性にも投与可能です。一方、ホルモン剤では最近、本邦で月経困難症の適応で認可されているDrospirenone含有LEP剤が2006年に米国でFDA承認薬となっており、有効性が高いことがわかっています。欧米では一般の低用量ピル(避妊用)あるいはLEP剤(本邦では月経困難症保険薬、欧米では避妊薬)はPMS では身体症状改善には有効であるが精神症状には有効でないとされています。しかし、身体症状の改善が精神症状を緩和し、ある程度の満足感があることは臨床上しばしば経験され、本邦ではよく用いられます6)

治療法の選択に関しては診療科によって多少の温度差があり、婦人科では使い慣れているホルモン剤が、精神科ではSSRIが多く使用される傾向がみられる。いずれにしてもPMS、PMDDの治療では診療科に関係なく各々の治療の特性を十分に説明し、患者の症状にあわせて偏りなく適切に治療法を選択することが望まれますSSRIは本邦では精神科で主に処方される薬剤ですが、欧米では一般医で称されています。なお明らかな気分変調や極端な行動異常があり、入院歴、自殺念慮、背景に他の精神疾患の存在を疑う場合は精神科または心療内科受診を勧めています。

7、おわりに

以上、最近疾患病態と治療法が明確になってきたPMS PMDDの診断と治療について述べてきました。本疾患に関しては診断基準に則った症状の分析と重症度の評価を行い、総合的な治療計画を設定し、忍耐強く治療することが必要です。本疾患の特性から、病状が排卵周期確立以降発現することにかんがみ、若年代から対処法を啓発することは女性の精神衛生上重要なことと思われます。本文がその一助になれば幸いです。

1)American Psychiatric Association Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. Fifth Edition 2013 Washington DC American Psychiatric Association 2013

2)Iternational Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems 2019 WHO

3)Takeda T, Tasaka K, Sakata M, Murata Y. Prevalence of premenstrual syndrome and premenstrual dysphoric disorder in Japanese women. Arch Womens Ment Health 2006 9(4):209-12. 9(4):209-12. 

4) Kitamura M et al Relationship between premenstrual symptoms and dysmenorrhea in Japanese high school students. Arch Womens Ment Health.2012 Apr;15(2):131-3.

5) Freeman EW. Premenstrual syndrome and premenstrual dysphonic disorder: definitions and diagnosis. Psychoneuroendocrinology 2003  28 Suppl 3:25-37.

6)婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編 2011、2014、2017、2020