男性にもホットフラッシュやほてりが起こる。「男性更年期障害」の症状や発症時期、女性の更年期との違いは?
女性に特有なものと思われてきた更年期障害・症状ですが、最近は、男性にも起こることが話題になっています。男性と女性の更年期障害・症状、どちらも引き金になるのは性ホルモンの低下で、現れる症状にも共通するものがかなり見られます。
しかし、女性ホルモン(エストロゲン)と男性ホルモン(テストステロン)は、その分泌減少のメカニズムなどに違いがあり、男女の更年期症状・障害は同じではありません。
ここではその違いを中心に、発症時期の特徴などについてみていきましょう。
目次
女性の更年期は「閉経」に関連。男性の更年期は主に「心身ストレス」が影響
女性の更年期は、閉経前後の10年間をさしています。概ね45~55歳とされ、この時期には卵巣機能が低下・停止し、女性の健康保持に作用するエストロゲンが急激に減少していきます。この急激な減少が自律神経の不調や皮膚粘膜の乾燥などに影響し、更年期世代の9割が、何らかの不快な症状を経験するとされています。
ほとんどの女性は更年期の時期に閉経し、50代のうちに女性ホルモンが枯渇します。閉経に伴う卵巣機能の低下は、不可逆的な(元に戻らない)ものであることが特徴です。
一方、男性には「閉経」という現象はありません。男性ホルモンであるテストステロンの分泌は、20~30代でピークに達し、その後は年1~2%ずつゆるやかに減少しますが、ホルモン分泌は生涯を通じて続きます。
しかし、仕事や人間関係のストレスなどにより、その分泌量が急激に下がることがあります。その変動に体がついていけずに起こるのが、男性更年期障害だといえます。
<男女別・加齢によるホルモン分泌の変化>
加齢に伴いテストステロン値が低下することによる症候は、late onset hypogonadism(LOH症候群、加齢性腺機能低下症)と呼ばれます。
「朝起きられない」「イライラして集中力がない」「抑うつ感」「疲れやすい、やる気が出ない」「発汗(ホットフラッシュ、のぼせ、ほてり」「不安感」など、不調の出方は人それぞれですが、女性の更年期症状ともよく似た身体症状、精神症状がみられます。
性欲の減退、勃起障害(ED)などの性的症状はほとんどの人に共通して見られます。
精神神経系症状 | •情緒不安定、イライラ、怒りっぽい •抑うつ気分、意欲低下 •記憶力低下、集中力低下 •睡眠障害 |
身体症状 | •のぼせ、ほてり、多汗(ホットフラッシュ)、冷え •疲労感、頭痛、めまい •筋力低下 •性機能障害等 |
診療科 | 泌尿器科、心療内科、精神神経内科 |
治療法 | テストステロン補充療法、漢方療法、バイアグラ等ED治療薬、抗うつ剤、サプリメント(予防的)、カウンセリング 等 |
仕事への影響が大きいからこそ、早めに気づくことが重要
これまで、男性の更年期障害は、主要な症状であるED(勃起不全)ばかりが注目されやすい一面がありました。しかし、疲れやすい、集中力がなくなる、なにもしたくないなど、仕事や日常生活に差し支える精神症状も大きな問題です。
また、男性ホルモンの低下は認知機能の低下、糖尿病や肥満、メタボリックシンドローム、骨粗しょう症、心血管疾患(動脈硬化・血管内皮機能の低下)などに関係するとの研究結果もあります。
男性の更年期症状と仕事との関連について、2021年に当協会が実施したNHKとの共同調査で「更年期症状がパフォーマンスに及ぼす影響」を見たところ、「集中力が低下した」は男性が52.7%、女性が40.7%、「イライラすることが多かった」は男性が50.3%、女性が40.3%。「仕事への意欲が低下した」が男性46.2%、女性37.7%と、男性の回答率が女性よりも高い結果でした。
男性の更年期障害の仕事への影響については、「辞めることをを検討した」「人事評価が下がった」なども、注目すべき数値となっています。
<男性更年期障害・仕事にどのような影響があったか>
うつ病と間違われ見過ごされてしまうことも。男性更年期障害のチェック方法を知っておこう
男性ホルモンの減少は治療や生活改善で改善する女性の閉経のような明確な目安がないため、症状を見逃しやすい傾向があります。症状の程度は更年期指数である「AMSスコア」で測定し、自己評価を行うことができます。
下記のスコアで点数が高いようなら、泌尿器科や内分泌内科に受診して相談してください。テストステロンの補充療法を1~2回行うことで、運動する元気が出てくる人もたくさんいます。
なお、体内のテストステロンを増やすためには、食事の改善や筋トレなど、できることから始めてみるのも大切です。飲酒を控える、禁煙をする、運動を取り入れるなど、生活習慣を改善することで、体調が改善する例が多いといわれています。
更年期の捉え方・過ごし方を見直して、男女でともに健康づくりを
更年期は、男性と女性で考えていく共通の課題です。男女どちらの更年期障害も、性ホルモンの変動だけが原因でなく、社会環境や人間関係のストレスなども影響すると考えられています。
また、それぞれの心身の変化にもっとも気づきやすい位置にいるのは、パートナーであることも多く、早めの対応がお互いのコミュニケーションや、将来の健康長寿を守ることにもつながるという意識をもつことも大切です。男女の更年期について知り、理解し合うことは今後の健康経営でも必要な取組みと考えられます。
<更年期障害・症状、男性と女性でどう違う?>
女性の更年期障害・症状 | 男性の更年期障害(LOH症候群) | |
原因ホルモン | エストロゲン | テストステロン |
分泌の特徴 | 卵巣の機能低下に伴いエストロゲン分泌が減少し、閉経に至る。閉経後もわずかに分泌するがやがて枯渇する。不可逆的。 | 加齢とともにテストステロン分泌は徐々に減少し、40代~80代にかけてゆるやかに低下する。強いストレスの影響により一時的に減少する場合もあり症状の原因となる |
発症の時期 | 閉経前後の10年を更年期と呼び、この時期の心身の不調について「更年期症状」という。概ね45~55歳 | 40代以降で、何歳でも起こる可能性 |
症状 | ほてり・発汗・動悸など血管運動神経症状、イライラ・不眠など精神症状、易疲労、意欲低下、骨密度低下、腟・粘膜の乾燥症状 | ED(性機能減退)、ほてり・発汗・動悸など血管運動神経症状、イライラ・不眠など精神症状、易疲労、意欲低下、筋力低下、内臓脂肪増加 |
発症の頻度 | 更年期世代の8割以上が何らかの症状を感じ、そのうち3割が「更年期障害」と診断される | |
主となる治療法 | ホルモン補充療法(HRT)=減少(枯渇)したエストロゲンを必要量で補う。 漢方薬、栄養指導など | 男性ホルモン補充療法(TRT)=減少したテストステロンを補う。適切な治療やライフスタイル改善により男性ホルモンの減少を緩和することができる 漢方薬、栄養指導など |
セルフチェック | SMI(簡略更年期指数) | AMS(男性更年期・LOH症候群セルフチェック) |
重要な鑑別診断 | うつ病、甲状腺機能低下症、関節リウマチ、肝疾患、 | うつ病 |