<PMS特集①>このイライラはPMS(月経前症候群)のせいですか?
目次
月経前のつらさを我慢している人は少なくありません
月経前のだるさや眠気、イライラや憂うつ感などで日常生活になにか支障をきたしている状態を「PMS(月経前症候群)」といいます。20~40代の女性の7~8割が何らかの月経前症状を経験しているとされるので、むしろこの時期を快適に過ごしている女性のほうが少ないと言えるでしょう。
たとえ数日でも、毎月のように不快な症状が起こることは、仕事や日常生活のパフォーマンスにさまざまな影響を及ぼします。このページでは、PMSの症状やメカニズムの解説、月経前を快適に過ごす方法についてご提案をします。月経前を快適に過ごすことは、女性にとって1か月全体を快適に過ごすことにもつながります。
➡PMS特集① このイライラはPMS(月経前症候群)のせいですか?
PMS特集② PMS(月経前症候群)の原因とは。治療法と受診のポイント。黄体ホルモンとの関係
PMS特集③ 月経前(黄体期)の過ごし方を見直そう。むくみを抑えてPMS(月経前症候群)の症状を軽減
監修 小川真里子先生
福島県立医科大学 ふくしま子ども・女性医療支援センター 医学部産科婦人科学講座 特任教授。日本産科婦人科学会専門医、日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医、指導医ほか
アヴァンセレディースクリニック(東京・品川区)毎週金曜日午前 外来
知っていますか? PMSに関するウソとホント
①PMSは誰にでも起こるので病気ではない…「✖」
②PMSと月経困難症を併発し、1カ月の半分以上調子の悪い場合もある…「〇」
③PMSが起こるのはホルモンバランスが悪いから… 「✖」
④月経前(黄体期)に起こるむくみがPMSと関係していることがある… 「〇」
①~④はいずれも誤解されやすい項目です。それでは解説をみていきましょう。
解説①
PMSは20~40代の女性に非常に多い病的症状です
PMSとは、月経前に周期的に起こる心と体の不調で日常生活に支障をきたしている状態を指しています。月経の始まる3~10日の間続くもので、「産婦人科診療ガイドライン2020」(日本産科婦人科学会編)では、「月経のある年代の女性の約70~80%が月経前に何らかの症状を有する」しています。
あまりにもよくある症状なために、私たちはPMSに慣れすぎかもしれません。
たとえば次のような症状があげられます
お腹の張り、胸の圧痛、体重増加、手足のむくみ(腫脹)、関節の痛み |
睡眠障害、集中力低下、食欲の変化 |
イライラ、落ち込み、突然気分が変わりやすい、不安感 |
「毎月のことだから」「みんなそうだから」と我慢している人も多く、特にわが国では、月経に関する不調は「病気ではない」という扱いをされがちです。
しかし本人がつらいと感じ、仕事や生活に支障をきたしていると感じるなら、それは病気といえますし、対策を見つけて改善していくことができるのです。
<PMSの症状は150種類以上>
PMSの症状はとても多彩です。上記以外にも「だるい」「疲れる」「わけもなく涙が出る」などを感じる人もいるでしょう。その他の細かい症状も含めると150種類以上に及ぶとされています。そしてそれらにより、「仕事や勉強がはかどらない」「人に対して攻撃的になり、あとで自己嫌悪に陥る」などの社会的な支障が出ることにより、PMSは医学的にも正しい診断と治療が重要な病気になるのです。
なお、特に精神症状の重いものを「PMDD(月経前不快気分障害)」といいます。このほか、ぜんそくやうつ病などの持病が月経前にひどくなる場合もあり「PME(既存疾患の月経前憎悪)」と分類されています。
解説②
PMSと月経痛で月の半分以上つらい人もいる
PMSは、一般的に月経前の3日から10日間(黄体後期)に症状が起こり、月経が始まるとほとんどがおさまります。しかし、月経がはじまると今度は月経困難症(ひどい月経痛)があり、腹痛や吐き気、だるさなどでつらさが続くという人も少なくありません。
このような人では、結局1か月の半分近くかそれ以上も具合が悪いということになってしまいます。
海外のデータでは、
PMSも月経困難症(ひどい月経痛)もある 81%
PMSはあるが月経困難症はない 5%
PMSはないが月経困難症がある 3%
PMSも月経困難症もない 11%
(middle East Fertil Soc J.2018;23(4),48-490)
と、月経前も月経中にも何らかの体調不良を感じる人が8割に上るという結果が出ています。
<ベストな体調で実力を発揮できる期間を増やすには>
月経が終わった直後の1週間は、ほとんどの人にとって気分がスッキリし、やりたいことにいい状態で取り組める時期です。自分の実力を発揮して仕事や勉強に成果を出すには、こんな時期がずっと続けばいいのですが、PMSや月経痛があるとそうもいかないということになってしまいます。
解説3
PMSはホルモンバランスが悪いせいではない
PMSなど月経関連の不調があるとき、よく言われるのが「ホルモンバランス」の問題です。「イライラするのはホルモンバランスが悪いから」「ホルモン分泌が悪いから調子が悪い」などという言葉ですが、PMSはそれにはあてはまりません。
<PMSは正常な月経周期の中で起きている>
1カ月(28日)の月経周期の中で、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)は、上のグラフのように大きく変動します。月経が終わると排卵までの間にエストロゲン値が上昇し、排卵後はプロゲステロン値が上がってきます。そして、両方のホルモンとも下がったときに次の月経が起こります。
このようなホルモンサイクルが毎月起きているということは、排卵と月経が周期的なサイクルにあるということで、ホルモンバランスが整っているということです。
つまり、PMSはホルモンバランスがよく、正常な月経周期の中で起きています。また、PMSの女性とそうでない女性ではホルモン数値に差はないということもわかっています。ホルモン数値は月経周期の中で大きく変動しているので、測定値を他の人と見比べて「多い・少ない」と考えることには意味はありません。
では何が原因なのでしょうか。現在有力なのがプロゲステロンの代謝物「アロプログナノロン」が影響するいう仮説です。また、最近の研究により、黄体期に起こる水分貯留(むくみ)が、PMS 症状に関係することがわかってきています。
<PMSと更年期症状>
PMSは20~40代の女性ホルモン分泌の盛んな時期の女性に多く起こり、閉経が近づいてホルモン分泌量が低下すると、しだいに症状も起きにくくなってきます。
ただし、40代では、イライラやほてり、不眠など更年期症状と重なる症状も多く、自分ではPMSなのか更年期症状なのか区別がつきにくいかもしれません。不調を我慢せず、婦人科を受診してください。
PMSが仕事に及ぼす影響
実際のところ、PMSは女性の働き方にどのような影響を与えているのでしょうか。ここでは、2つのデータをご紹介します。
経済産業省のデータによれば、月経不順や月経痛、PMS、更年期障害などの「女性特有の健康課題」により、6割の女性が仕事上(勤務先)で何らかの困った経験をしています。その健康問題として、48%の人がPMSと回答しています。
出典 経済産業省 健康経営のさらなる発展に向けて2018年より
PMS症状で「仕事を辞める」「昇進を辞退」と考えるケースも
このようにPMS症状により困った経験が毎月のように起こることは、仕事へのモチベーションやキャリアアップにも影響します。
製薬企業が行った調査では、日常生活に支障をきたすほどのPMS症状を感じている女性は、PMSのために「仕事をやめた」あるいは「やめようと悩んだ」人が、全体の半数以上に昇ることがわかりました。
昇進についても、半数以上の人が「昇進を辞退した」「辞退するか迷った」としていました。女性が仕事上のキャリアを形成する上でも、PMSは明らかに弊害をもたらしているということがわかります。
解説4
月経前のむくみを予防するとPMSがラクになる可能性
手足がむくむ、体が重い、おなかが張る、吐き気、だるい、頭痛、頭重感…。これらはむくみ(水分貯留)に関連する症状です。
PMSで起こる身体症状には、むくみによるものが多いことがわかります。月経前には体が重く、顔が腫れぼったくなり、実際に体重が1~3キロほど増えるが、月経がはじまると体重は元に戻るという人は少なくありません。
このように、黄体期に起こる水分貯留(むくみ)が、PMS 症状に関係することがわかってきました。
そこで、PMS の治療にはホルモン変動を抑えるOC・LEP 製剤や漢方薬、SSRI(抗うつ剤)、そして利尿剤などが使用されます。一人でつらさを抱え込まず、婦人科専門医を受診しましょう。
同時に、日常生活でも対処法としてむくみにくい食事のとり方、睡眠などのライフスタイル、体の水分の排出に役立つ成分などを知っておくことも、月経前を快適に過ごすために役立つといえます。