PMS特集② PMS(月経前症候群)の原因とは。治療法と受診のポイント。黄体ホルモンとの関係
目次
原因がわかると対処法が見えてきます
月経前のだるさや眠気、イライラや憂うつ感など「PMS(月経前症候群)」は、仕事や日常生活のパフォーマンスにさまざまな影響を及ぼします。特に、より重い精神症状をきたすPMDD(月経前不快気分障害)やPME(既存疾患の月経前憎悪)は、広く知られていないこともあって周囲にも理解されにくく、一人で悩みを抱えがちです。ではなぜ月経前にこうした症状が起きるのでしょうか。
このページでは、PMSの諸症状と黄体ホルモンとの関係、水分貯留など現在考えられている原因と、受診の目安、治療法についてやや詳しめに解説いたします。
PMS特集① このイライラはPMS(月経前症候群)のせいですか?
➡PMS特集② PMS(月経前症候群)の原因とは。治療法と受診のポイント。黄体ホルモンとの関係
PMS特集③ 月経前(黄体期)の過ごし方を見直そう。むくみを抑えてPMS(月経前症候群)の症状を軽減
監修 小川真里子先生
福島県立医科大学 ふくしま子ども・女性医療支援センター 医学部産科婦人科学講座 特任教授。日本産科婦人科学会専門医、日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医、指導医ほか
アヴァンセレディースクリニック(東京・品川区)毎週金曜日午前 外来
より重症度の高いPMS症状について
PMSは月経前3日~10日間に心身のさまざまな症状が繰り返して起こる状態であり 、20~40代の女性の7~8割が何らかの症状を経験していると思われます。また、その中には、特に精神的な症状が強く、仕事や社会活動、周囲との人間関係などにもより深刻に影響を与えてしまうものがあります。
<PMDD(月経前不快気分障害)>
PMSの中でも、強い精神症状を中心とするものをPMDD(月経前不快気分障害)といいます。著しい感情の不安定性や著しい抑うつ気分、対人関係の摩擦、絶望感、食欲の著しい変化など、米国精神科学会による厳密な診断基準があります。
日本でもこの診断基準(DSM-5)を用いており、それによれば日本人では社会生活に支障がでる中等症以上のPMSは5.4%、PMDDは1.2%と報告されています。
<PMSやPMDDで受診すべき診療科と治療薬>
月経のたびにつらい症状があり、仕事や勉強がはかどらず、職場や学校、家庭での人間関係に支障をきたすことがあったら、まず婦人科専門医に相談してください。月経周期における女性ホルモン変動によって起こるので、治療薬としては排卵を止め女性ホルモンの変動を抑えるOC・LEP 製剤、漢方薬、SSRI(抗うつ剤)、利尿剤などが使用されます。
また、PMDDは精神科の診断基準を使用し、精神科で診療が行われてきた歴史があります。PMDDかどうかの判断に迷ったときは、まず婦人科で相談するといいでしょう。
受診~治療の基本的な流れ
①手帳やスマホアプリなどを活用し、気になる症状と月経サイクルの関係を記録。月経前の黄体期に起きているか、月経が始まると納まるかなどをチェック |
②婦人科専門医を受診。PMS(月経前症候群)との診断があれば、生活指導や処方を受ける a )カウンセリング、生活指導、運動療法 b)利尿剤や漢方薬の処方 c)OC(低用量ピル)またはLEP(低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬)の処方 |
③精神症状に対してはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)の処方を受ける |
④精神症状が強いときは、精神科・心療内科の受診を考慮する |
<PME(既存疾患の月経前憎悪)>
持病を持っている女性では、その症状が月経前に悪化することがあります。これはPME(既存疾患の月経前憎悪)といいます。
PMEの中でよく知られているものは、ぜんそくやアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患やうつ病などの精神疾患です。PMDDでもかなり強い精神症状が出るのですが、月経が始まるとほとんど消失するのが特徴です。一方、PMEでは、うつ病の症状がずっと続いており、それが月経前には特に強くなるということになります。
PMSでなぜイライラや不安症状が起こるのか(「アロプレグナノロン:ALLO」仮説)
PMS、PMDD、PMEは月経前の黄体期に起こる症状であることから、黄体ホルモンであるプロゲステロンの変動が関係することは明らかです。しかし、プロゲステロンがどう関わっているかについては、はっきりとはわかっていませんでした。たとえば、PMS症状の強い人ではプロゲステロン値が高いというような相関は見出されてこなかったのです。
これについて、現在、最も有力とされる説は、プロゲステロンから産生される「アロプレグナノロン(ALLO)」という代謝物の作用です。ALLOは、脳内でGABA(ギャバ)受容体に働き、その活動性を高めます。GABAとはγ(ガンマ)アミノ酪酸の略称。脳内や脊髄で精神を安定させる抑制性の神経伝達物質で、サプリの素材としてもよく知られているものです。
ALLOはGABAに働きかけ、脳内で鎮静や抗不安作用をもたらす役割をすると考えられます。
しかし、PMS症状のある女性では、ALLOの産生が低下しているという報告があります。このためGABAの活動が抑制され、PMSの症状である不安やうつなどの神経症状が発現するのではないかというわけです。
また、PMS症状のある女性とPMS症状のない女性とで、血中アロプレグナノロン濃度の変化を調べたデータでは、PMS女性のほうがアロプレグナノロン量が低いという結果が見られています。
(参考)https://womensmentalhealth.org/specialty-clinics-2/pms-and-pmdd/the-etiology-of-pmdd/
PMS女性はアロプレグナノロンの産生が低下している可能性がある(資料提供 小川真里子先生)
黄体期にやりがちな“ドカ食い”は、血糖値の乱高下によるもの
「無性に甘いものが食べたくなる」
「お菓子や刺激物、脂っこいおかずをドカ食いしてしまう」
月経前は食欲がやたらと亢進することがあります。これは、女性ホルモンの周期的な変動が血糖値にも影響を与えるからです。エストロゲンは血糖をコントロールするインスリンの効きをよくするのに対し、プロゲステロンは効きを悪くするという説があり、黄体期には血糖値が変動しやすいと考えられています。
「お腹が空くとイライラする」「食欲が抑えられない」という現象は、血糖値が下がったことにより起こり、食べると血糖値が上がるため気分が収まります。
しかし、甘いものをとって急激に上昇した血糖値は急激に下降するため、食後にだるさや眠気、集中力のなさ、イライラなどをもっと感じるようになってしまいます。
気分や体調の変動を防ぎ、生活習慣病を予防するためにも、血糖値の上下をできるだけ防ぐことが重要です。そのためには、朝昼晩の食事をバランス良くしっかりと摂るように心がけることも、PMS予防のための生活改善に役立ちます。
黄体期は体が水分をため込む時期。むくみを防いで心身ともに快適に
月経前に起こるお腹の張りや頭痛、体重増加などは、水分貯留が影響していることがあります。黄体期は女性の体が妊娠・出産に向けた準備をはじめるのですが、この過程で体内に水分をため込もうとします。その結果、むくみが出やすく体重も増加します。
また、プロゲステロンには腸の動きを鈍くする働きもあるため、便秘になりやすく、これもお腹のはりや体重増加に関係しています。
PMS症状のある女性は、症状のない女性と比べて、黄体期に水分貯留しやすいというデータがあり、また、水分貯留による諸症状とイライラなどの精神症状は相関するということもわかっています。
黄体期の過ごし方を変えてPMSを予防しよう
ライフスタイルでは、運動不足、座りっぱなしの生活、夜更かし、塩分や水分のとり過ぎ、冷えを招きやすい生活などもむくみに関係します。PMS特集③では、むくみや血糖値の乱高下を防ぐライフスタイルについて、具体的にご提案していきます。